脂質異常症はLDLやTG高値、HDL低値によって診断される疾患で脂質代謝を管理する目的は動脈硬化性疾患の予防です。家族性高コレステロール血症の患者は若年で冠動脈疾患を発症することがあり、生まれてからのLDLコレステロールの蓄積があればあるほど動脈硬化が進むと考えられています。そのため早期治療を行いLDLが高い期間を短く保つことが重要です。
診断基準
①LDLコレステロール
140mg/dL以上;高LDLコレステロール血症
②HDLコレステロール
40mg/dL未満;低HDLコレステロール血症
③トリグリセリド
150mg/dL以上(空腹時採血);高トリグリセリド血症
175mg/dL以上(随時採血);高トリグリセリド血症
④non-HDLコレステロール
170mg/dL以上;高non-HDLコレステロール血症
以前は空腹時の血液検査が必要でしたが、トリグリセリドに関して随時でのカットオフ値が示されたため空腹は必須ではなくなりました。LDLコレステロールやHDLコレステロールは食後の変動はわずかであるため、食事時間はあまり気にする必要はありません。食後にトリグリセリドは上昇しますが、これは食後高脂血症を示唆する所見です。この食後高脂血症も空腹時のトリグリセリド上昇と同程度に心血管イベントに関与するため、随時のトリグリセリド上昇も診断基準に組み込まれました。
HDLやLDLは低いのも問題で、HDLコレステロールが25mgidL未満であれば原発性低HDLコレステロール血症を、LDLコレステロールが15mg/dL未満であれば原発性低LDLコレステロール血症を考えます。
脂質異常症は原発性と続発性に分類されます。
原発性は家族性コレステロール血症や家族性複合型高脂血症があります。
続発性には糖尿病や脂肪性肝疾患、ネフローゼ症候群、甲状腺機能異常などがあります。
家族性コレステロール血症はかなり高頻度で、報告によっては12人に1人が家族性コレステロール血症とする報告もあります(多田紀夫,他.成人病と生活習慣病35:1187-1197,2005.)。ただし300人に1人とされている報告もあり、正確な数字の把握は困難です。
治療はリスク分類を行い、その分類に沿って脂質の管理目標の数値が設定されており、その目標値を目指して内服薬の調整を行い、栄養指導も並行して行います。
LDLは主に肝臓で合成される分が8割近くあるため食事制限をしても効果は限定的とされています。コレステロールをとらないように勧めるよりは脂質や糖質の摂取を制限してトリグリセリドの上昇を防ぐ方が理にかなっていると思います。
HDLコレステロールと動脈硬化性疾患による死亡はU字型の関係となっており、高すぎても動脈硬化性疾患と関連するという可能性も指摘されています。低HDLコレステロール血症の場合もHDLを上昇させても冠動脈疾患発症を抑制させることは示せておらず、扱いが難しいと感じています。
最近ではsmall dense LDLやアポリポタンパクB-100がLDLよりも動脈硬化性疾患予防のマーカーとして意義があるとの見方がでておりますが、保険診療ではsmall dense LDLは測定できません。人間ドックで測定されることはありますが、保険診療でのフォローはできず、トリグリセリドなどの数値を考慮しながら予測を立てて治療していく必要があります。ときおり人間ドックで異常を指摘されて受診されることがあり、対応をいつも考えます。
トリグリセリドが多くなるとLDLは低値でもsmall dense LDLが高値であることがあります。そのため、LDLが正常でもトリグリセリドが高値ならLDLをより一層下げた方が良い可能性があります。
リポタンパク(a)も最近は注目されており保険診療でも利用できますが、明確なエビデンスはまだ十分ではないため参考に使用します。
診察で聴取すべき内容は続発性をきたす既往歴の有無、脂質異常症や心血管疾患の家族歴、角膜輪やアキレス腱肥厚などの身体所見は必須です。
血液検査も通常のLDL,HDL,TG,non-HDLのみではなく、一度はリポ蛋白分画やアポリポ蛋白、リポ蛋白(a)も採取した方がよさそうです。
高LDLコレステロール血症の治療にはスタチン、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬、陰イオン交換樹脂、プロブコール、PCSK9阻害薬があります。
スタチンでコントロールが難しければスタチンにエゼチミブの併用あるいはスタチンにPCSK9阻害薬を考慮します。
高トリグリセリド血症の治療はフィブラート系、ω-3多価不飽和脂肪酸、ニコチン酸誘導体があります。
初診時や治療の経過中に頸動脈エコーや足関節上腕血圧比(ABI)などを用いて動脈硬化の評価も大切です。頸動脈エコーで狭小化が50%を超えた場合は造影検査や脳血流量の検査を行います。内膜中膜厚(IMT)が1.1mmを超えた場合は心血管イベント発症リスクが2倍となるためより一層慎重に治療を行う必要があります。ABIは0.9未満で下肢動脈疾患の可能性があり、1.4以上では高度な石灰化で血管がうまく圧迫できていない可能性を考慮し足趾上腕血圧比(TBI)も行います。
血管弾性指標とは血管機能を定量化したものです。この血管弾性指標を予測するには脈波伝播速度(PWV)や心臓足首血管指数(CAVI)を用います。PWVは波であるため動脈壁が固いほどPWVの値は増加します。CAVIは9を超えると心血管イベントのリスクが高いとされています。このCAVIは心室-動脈連関にも関連しており、心臓の求心性肥大やリモデリングの指標となることが指摘されているようです。
スタチンを含む脂質異常症の治療薬は胎児奇形のリスクがあり禁忌のため妊娠を希望する女性は注意が必要です。
また報告により異なりますが、75歳以上の後期高齢者でも一次予防としてスタチンを投与して心血管イベントの抑制効果はあるとの報告もあり、基本的には高齢者でも治療を行う方針で良いと思います。
参考文献
池崎裕昭著.脂質異常症の診かた,考えかた.中外医学社.
日本動脈硬化学会.動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.
永山大二.Medical Practice vol.43 no.7 2026.文光堂.

脂質異常症の診かた、考えかた [ 池崎 裕昭 ]

新装改訂版 見直し!脂質異常症 [ 小倉正恒 ]

動脈硬化性疾患予防ガイドライン (2022年版)