BasedowはTSH受容体に対する自己抗体がTSH受容体を刺激して甲状腺ホルモンが過剰に産生されてしまう疾患です。女性に多く20-30代の発症が多いとされています。この疾患では甲状腺ホルモンの上昇と両葉の腫大を認めますが、エコ―で腫大ではなく結節を認めた場合はPlummer病の考慮が必要です。臨床的な症状として動悸や倦怠感、体重減少、食欲亢進、発汗過多、手指振戦、収縮期血圧上昇などをきたします。Basedow病で息切れをきたすこともあり、心房細動を合併することもあります。私も外来でBasedow病の人の治療を行っていますが、初診時は症状で疑って検査して診断する、というよりは咳嗽を主訴に受診し胸部CTを撮影したら偶発的に甲状腺の腫大や結節があり検査したらBasedow病であったということが多い気がします。倦怠感や体重減少、血圧高値で精査しても甲状腺ホルモンの異常がないことが圧倒的に多いです。検診で甲状線腫大があれば内分泌科などへ直接紹介されると思うので、一般外来では頻度は少ないと思います。有病率は人口1000人あたり1-6人、年間発症率は約10万人あたり20-30人程度みたいです。こう見ると結構多いのかなと思いました。私の場合は数か月間外来やって新規で1,2人診断するぐらいの割合という印象があり、結構見逃してしまっているのかなと思いましたが、私の勤務している地域の人口を調べてみたら20万人ぐらいでした。すごい見逃しているという訳ではなさそうで安心しました。
診断は甲状腺中毒症状、びまん性甲状腺腫大、甲状腺眼症いずれかと、FT3、FT4の上昇、TSHの低下、抗TSH受容体抗体(TRAb)陽性、甲状腺刺激抗体(TSAb)陽性、甲状腺摂取検査で特徴的な所見の全てが合致すれば診断できます。3つ合致なら準確実例とします(甲状腺疾患診断ガイドライン2024,日本甲状腺学会ホームページ)。肝逸脱酵素は甲状腺中毒症でも甲状腺機能低下でも上昇しますので鑑別にはあまり役に立ちませんが、よく分からない肝逸脱酵素の上昇があれば甲状腺機能異常を考えても良いかもしれません。甲状腺中毒症ではコレステロールは低下し、甲状腺機能低下で上昇します。LDLコレステロールが高値であれば甲状腺も調べますが、低値の時は調べてなかったので注意しないとなと思いました。スタチン抵抗性の時は特に注意が必要です。
TRHは測定困難であるためTSHを測定します。私はこれを知らずにTRHの測定項目を電子カルテでずっと探していたことがあります。
FT4が高値でもTSHが正常~軽度上昇の時はTSH不適切分泌症候群を考えます。
Basedow病でも抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)や抗サイログロブリン抗体(TgAb)も陽性になることがあります。
T3toxicosisは初期や軽症例ではFT4が正常でFT3のみ高値となることです。そのため甲状腺中毒症のときはFT3も調べます。小児Basedowは注意欠如多動症と間違われることがあり注意が必要です。
甲状腺摂取検査は実施可能な施設でない限り、一般外来では行う機会はないと思われます。そのため症状と血液検査で診断し治療を開始するという流れが一般的だと思います。
甲状腺眼症はBasedow病だけでなく、頻度は低いが橋本病でも認められます。視神経が圧迫され失明する可能性もあるため注意が必要です。MRIで眼筋の肥厚をチェックするとともに眼科へ評価を依頼が必要です。眼症の治療は甲状腺機能の正常化、禁煙が基本で、軽症例ではステロイド局所注射や点眼薬、重症例ではステロイドパルスを行うようです。こちらはあまり内科で目にすることはありません。甲状腺機能が正常でも甲状腺眼症がある場合はeuthyroid Graves病を疑い眼の状態評価のため眼科へ依頼が必要で、これは愛煙家に多いようです。こちらも眼科の先生に任せるしかなさそうです。
Basedow病の治療は薬物、放射性ヨウ素(アイソトープ治療)、手術があります。
Basedow病は放置されれば心不全や甲状腺クリーゼに至ります(甲状腺機能低下症は粘液水腫性昏睡)。そのため治療が必要です。
薬物はチアマゾール(MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)、ヨウ化カリウム(KI)のいずれかですが、基本はMMIを用います。MMIは催奇形性があるため、妊娠4週~16週はPTUに変更する必要があります。MMIは用量依存的に薬疹と無顆粒球症をきたすことがあり。そのため高用量が必要なときはMMI30mg/日(MAX量)は避けて、MMI15mg/日+KI1錠の併用が良いとされています。肝障害も重症となることがあり、治療開始2か月ぐらいは2週間毎の肝酵素と肝機能のフォローと4週間毎の甲状腺ホルモンのフォローが必要です。MPO-ANCA関連血管炎をきたすこともあり神経症状にも気を付けながらフォローする必要があります。私は以前MMIを15mg/日で治療を開始し、TSHがまだ正常範囲内に入らないため30mg/日に一気に上げてしまったことがあります。その後フォローしたらTSHが著明に上昇してしまい、甲状腺機能低下の症状がでてしまいました。その際は5mg/日に変更し一旦安定してから再度増量としました。
妊娠時の場合はFT4ではなくTSHを指標として治療薬を調整します。これは妊娠時の検査には信頼性の問題があるためです。妊婦さんの場合は専門の科に紹介してしまった方が良いかなと考えてます。
2年程度の抗甲状腺薬の内服でも完治ができなければアイソトープ治療や手術を考えます。TRAbやTSAbが高値の場合は再燃リスクが高いとされています。
アイソトープ治療は、甲状腺はヨウ素代謝の場であるため放射性ヨウ素を内服し取り込ませ、放出されるβ線で細胞を破壊する治療法です。こちらも専門施設に任せるしかなさそうです。アイソトープ治療は妊娠中や妊娠可能性のある女性には禁忌で、治療後6カ月は避妊が必要です。治療後に甲状腺機能低下症に移行することがあり、この低下は一時的なこともあれば永続的なこともあります。永続性の人を外来で見ていますが、治療の副作用はどんな病気、治療でも避けられないですね。
参考文献
かかりつけ医のための甲状腺疾患治療ガイド,日本甲状腺協会;診断と治療社.
ハリソン内科学第5版
甲状腺疾患診療マニュアル改訂第3版.西川光重,他.