小児喘息

喘息は気道の慢性炎症を特徴とする疾患であり、気道狭窄が発作性に生じるため、咳嗽、呼気性喘鳴や呼吸困難を繰り返します。
この気道狭窄は気管支平滑筋収縮、気道粘膜浮腫、気道分泌亢進が原因とされています。やけに感冒での受診が多いなと感じたりするときに疑うこともあります。

遺伝的な因子に加えて、アレルゲンや感染、受動喫煙、大気汚染などの環境因子により気道の炎症が生じ、気道の炎症が気道リモデリング、気道過敏性を惹起し気流制限をきたすことで喘息の症状が出現するとされています。喘息の炎症は2型炎症と呼ばれ好酸球やマスト細胞、2型ヘルパーT細胞のみではなく、自然免疫系の2型自然リンパ球(ILC2)が原因となることが明らかとなっています。2型炎症がlowなタイプも存在します。
血液検査で好酸球の上昇があまりない場合やFeNOが低値の場合、血清特異的IgEが低い場合はこの2型炎症がlowなタイプを疑いますが、そもそも喘息なのか疑わしいけどその他の疾患っぽくもないなぁと考えながら治療して経過を見たりします。そういった時に生物学的製剤をやってもあまり効果が乏しいのかなと感じます。

JPGL2023では乳幼児喘息は5歳以下であり、IgE関連喘息とウイルスや受動喫煙、冷たい空気などで誘発される非IgE関連喘息と分類しました。感染などで喘鳴を繰り返す反応性気道疾患と一過性初期喘鳴群を喘息と診断しないように喘鳴エピソードが3回以上繰り返すことを診断の目安としています。喘鳴は急性と反復性に分けて鑑別を考えると良いとされております。

RSウイルスやライノウイルス、ヒトメタニューモウイルスは喘息発症に関与しているともされています。喘息の診断は反復する喘鳴のエピソードが3回認めることが重要とされています。運動や呼吸器感染症、アレルゲン吸入、気候変動などで症状が反復することを病歴で確認できれば喘息と診断できることもあります。細気管支炎などでも喘鳴は認めまるため、すぐに喘息と診断しないことが重要というのも分かりますが、以前から咳嗽をずっと繰り返していたという親からの訴えを聞くことも多いです。その場合は慢性鼻副鼻腔炎による咳嗽が持続しており、そこに細気管支炎を合併した場合などでも矛盾はないですが、正直診断はすごい難しいと感じます。もちろんこの診断基準も絶対ではないです。喘鳴がなくても喘息と診断できることも多いです。喘鳴のエピソードを3回認める前に、治らないとの理由で他院を受診してしまうケースもあると思います。私の外来でも、他院で咳嗽をずっと見てもらっているけど全く治らないと言って来院する患者さんがいます。その先生の気持ちはすごい分かります。咳嗽が不得意な先生で対処法が分からない先生でも、咳嗽が得意な先生でも、最初は経過観察するためあまりあまりやることは変わらないと思います。説明の仕方が重要と書いてある本も多々ありますが、いくら丁寧に説明しても限界はあります。

喘息と過大診断しないことも重要ですが、喘息を見逃さないことも重要です。咳嗽を反復する場合は繰り返す上気道炎と片付けずに吸入の効果を見てみることも重要です。喘鳴を反復して6歳までに気道リモデリングが生じるとその後呼吸機能は改善しないとされているからです。しかし、吸入ステロイド薬(ICS)を初期から導入しても喘息発症抑制効果はなく呼吸機能改善効果もないとされており難しいところです(かと言って放置はできませんが)。小児期の喘息の管理がうまく行えないと成人喘息への移行や呼吸機能低下をきたす可能性がありますが小児期のICS治療によってそれが防げるかも不明です。


喘息の病型にはアトピー型と非アトピー型があり、吸入アレルゲンに対する特異的IgE抗体を証明できればアトピー型、証明できなければ非アトピー型とします。小児の採血は難しいため、忙しい外来では採血まで手が回らないこともあります。小児科の先生は採血に慣れているため、実施が難しければ採血の依頼をお願いすることも考慮してもいいかもしれません。吸入アレルゲンは喘息発症のリスクになりますが、食物アレルゲンは特殊な例を除きリスクになるかは現段階では分かっていないため、まずは吸収アレルゲンを調べれば良いと思います。また、現在は衛生状態が良いため肺の細菌叢が発達しないことが喘息発症に関与するという説があります。私は小さいころは田舎育ちで自宅はあまり綺麗ではなく、犬や猫を飼っていたため衛生状態はあまり良くなかったと思いますが、小児喘息を発症し中学生で寛解。その後30歳頃に再燃しました。

小児の呼吸機能検査では日本の小児呼吸器学会の1秒率の基準値は80%以上、米国では1秒率は85%以上が正常のカットオフ値となっており、FeNOのカットオフ値は35ppbとなっています。このFeNOは気道感染で高値となり、喫煙や発作時は低値となるとされています。強制オシレーション法で呼吸抵抗を調べたりしますが、小児は呼吸抵抗が著明に高値な例が多いと実感しております。そのため検査の信ぴょう性を疑いながら日々過ごしています。

小児喘息の治療は長期管理薬が未使用の場合は重症度に合わせて治療ステップを決定し薬剤を選択します。5歳以下、6歳~15歳と年齢で治療の選択肢が異なります。JPGL2023では5歳以下でも中用量ICS/LABAの記載があり(生後8カ月以上から適応あり)よりいっそうICS/LABAが使用しやすくなりました。6歳以上からテオフィリン、生物学的製剤が使えるようになります。3か月以上コントロール良好であればステップダウンを検討します。ICSは喘息症状の軽減や増悪抑制、気道過敏性などを改善させるが、小児喘息の寛解率上昇に関してはデータを示せておりません。普段の咳嗽は落ち着いても運動時の喘鳴は少し改善に時間がかかる印象がありますが、ICS/LABAを使用続けていると良くなる症例が結構あります。少し気長に治療を継続することが大切と思います。

小児喘息が青年期までに寛解するのは30%程度であり、青年期以降で生理的以上に呼吸機能が低下する例があり生涯にわたり注意する必要がありそうです。

女性特有ですが、月経3日前から体液量が増加し気管支粘膜の浮腫で月経喘息が生じることがあります。女性で月1回ほど苦しくなる時がありますなどの訴えがあるときは月経との関連を聞いてみてもよさそうです。

神経発達症にはアレルギー疾患の合併が多いとされていますが、吸入の手技獲得が難しいことが時折あります。成人であればブリーズヘラーも選択肢となりますが、小児では適応がないためチャンバーを使用しての吸入を考慮します。

運動誘発気管支収縮は気道の水分喪失による浸透圧上昇で炎症性メディエーターなどが遊離され気管支平滑筋が収縮するもので運動負荷検査で診断しますが、普段の臨床ではそこまでやらず診断しています。普段の吸入に加えて運動30分前にSABAの吸入を指示しますが、私の外来ではやらない患者さんかなり多いです。やる人の方が圧倒的に少ないです。

鶏卵アレルギーによるワクチンの重篤な副反応の報告はなく気にせず摂取することができます。初めてインフルエンザのワクチンの問診をしたときに、鶏卵アレルギーがある人が来て焦ったことがあります。その方は毎年接種しているとのことで接種可能としましたが、結局全く気にする必要はないみたいです。

手術前は無発作で1カ月過ごし、上気道炎罹患後は症状改善から3週間以後に手術することが勧められています。手術30分前にSABA使用も良いとされています。

ICSは咽頭刺激感や嗄声、口腔カンジダ、咳嗽などの副作用がありうがいが必須です。吸入薬の副作用は、成人ではかなり多いです。全身性の副作用が少ないことが強調されてますが、嗄声や喀痰が絡む感じ、喉に違和感がある、喉が痛いなどかなり訴えが多いですが小児ではあまり言われることがありません。あってもあまり気にならないのかもしれません。スペーサー使用の時は口の周りも綺麗にした方が良いと思います。JPGL2023に記載があったのですが、ICSで肺炎のリスク増加が言われているが、呼吸器感染との関連性はないとのメタ解析もある(Cazeiro C,et
al.Pediatrics.2017.139.e20163271.)みたいです。これは知らなかったですが、実際の診療ではやはり吸入薬使っている人で肺炎はよく見ます。かなり高用量のICSでは副腎皮質機能低下に注意(Todd GR,et al.Arch Dis Child.2002.87.457-461.)が必要ですが、小児では最近はICS増量よりは生物学的製剤の追加に舵をきっている感じがします。

ロイコトリエン受容体拮抗薬はモンテルカストは精神症状に関して添付文書の記載がありますが、あまり臨床で実感はしないです。私が見逃しているだけなのでしょうか。。。

喘息ではダニや動物の毛などのアレルゲンの暴露や喫煙や大気汚染などの環境、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの併存症により治療の経過がうまくいかないことがあります。喘息によってインターフェロンの低下やウイルス受容体によってウイルス感染が増え発作につながる可能性があるため、ワクチン接種や感染予防が重要です。JPGL2023の中には年に1度の大掃除が必要と記載があります。明らかな鼻漏や咽頭痛、発熱があれば分かりやすいですが、喘息の咳嗽なのか感染なのか、吸入薬の副作用なのかは判断が相当難しいです。今まで家族みんなでなんで大掃除やるのかと思っていましたが、確かにダニの死骸などは減るのかなと思いました。昔は家族内で喘息は私のみでしたので、私のためでもあったかもしれません。
ピークフローの毎日の測定も治療効果確認の参考になります。
アレルギー性鼻炎と喘息の相互作用も言われており療法の治療を意識することが大切です。アレルギー性鼻炎では点鼻ステロイド薬や抗原回避などが重要であり、同時に診る姿勢が大事ですね。
鼻副鼻腔炎は喘息が治りにくくなる原因として重要で抗菌薬治療や好酸球性副鼻腔炎の評価が重要だが、小児では好酸球性副鼻腔炎は少ないとされています。難治性の咳嗽の小児で頭部CTで両側篩骨洞に陰影を認めて末梢血血液検査で好酸球増多があり耳鼻咽喉科に紹介したことがありますが、生検もなしで好酸球性副鼻腔炎は否定されていました。
胃食道逆流症では胃酸が迷走神経を刺激して咳嗽がでたり、逆流内容物を誤嚥することにより咳嗽がでます。小児喘息との合併も比較的多いため3か月程度PPIを併用することも選択肢で小児ではエソメプラゾールが保険適応があります。胃酸により咳嗽がでると親に説明しても、あまり納得されない方が多いです。ただ確かにPPIを処方しても、咳嗽が改善することは少ない気がします。

肥満では吸入治療の効果が減弱するため運動での減量が必要です。

喘息発症予防には受動喫煙の回避、肥満改善、1歳までの抗菌薬を控えることが重要ですが、親が喫煙していることは多いです。

発作時はSABA単独ではなくICSも同時に吸入するようにすることが重要とされています。

喘息の急性増悪では呼吸不全に至る可能性や気道内圧や肺胞内圧上昇によって縦隔気腫や皮下気腫などを生じるair leak症候群をきたす可能性があり、早期に治療を開始し気道内圧や肺胞内圧を下げる必要があります。SABAの吸入は20-30分間隔で3回程度までは使用するのにためらわないことが重要です。ネブライザーの吸入液はJPGLでは乳幼児は0.3mlで学童期以上は0.3-0.5mlが推奨されているが保険適応があるのは0.3mlのみです。SABAは家庭で使用することをためらう必要はありませんが、薬はできれば使わない方が良いかと思って使わなかったと言う人が時々います。こう言った方には繰り返し説明しても、伝わらないことが結構多い印象です。
全身性ステロイドは防腐剤のパラベンやコハク酸エステルでアレルギー反応をきたすことがあります。メチルプレドニゾロンは乳糖を含んでおり牛乳アレルギーにも注意が必要です。使用する前に問診が必要ですが、テンプレート化しておかないと忘れてしまうため、ステロイド投与前の確認事項として看護師さんとチェックリストを作る方が確実です。イソプロテレノールはβ1、β2刺激作用があるためβ1刺激による循環器系の副作用に注意が必要です。テオフィリンは痙攣既往や中枢神経系の疾患がある小児には使用しないようにします。

喘息発作時には呼吸抑制リスクがあり中枢性鎮咳薬の使用は控えます。麻薬性の鎮咳薬は使用してはいけないとされています。鎮咳薬は否定的な意見も多々あり、使用しない方が良いと思う場面も多いです。が、患者さんが納得しません。何度説明しても納得しません。その際はリスクは説明し少量で処方するほうにしています。

発作時はおおまかにSpO2で発作強度を推定します。96%未満であれば中発作以上で91%以下なら大発作とざっくり考えます。大発作では入院を考え対応します。喘鳴の強弱だけでは発作強度は判断困難で全身状態を見て総合的に決めます。酸素と表情と呼吸数が結構重要と考えています。

症状が5年間なければ臨床的治癒、肺機能も改善すれば機能的治癒と判断しますが、繰り返す上気道炎なのか慢性副鼻腔炎なのか喘息なのか、いつも迷って外来をしています。

参考文献

小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023.日本小児アレルギー学会.協和企画.

高瀬真人.小児の肺機能検査のスタンダード 日本人小児スパイログラム基準値とカットオフ値.日本小児呼吸器疾患学会雑誌2010

National Asthma Education and Prevention Program. J Allergy Clin Immunol.2007.

Calpin C,et al.J Allergy Clin Immunol.1997.100.452-457.

Childfood Asthma Management Program Research Group,et al.N Engl J Med.2000.343.1054-1063.

Martinez FD,et al.2013.382.1360-1372.

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