高血圧

高血圧は家庭血圧で135/85mmHg以上の場合に診断します。家庭血圧115/75未満が正常血圧で高血圧と正常血圧の間は値によって正常高値血圧、高値血圧となります。収縮期血圧と拡張期血圧が異なる分類にまたがるときは、高い方の分類として判定します。

高血圧は脳卒中や冠動脈疾患の最大のリスク因子です。120/80mmHg未満で全年齢で死亡リスクが低いとされており、この関連は拡張期血圧よりも収縮期血圧でより強いとされています。また、CKDや心不全、心房細動の発症のリスク因子でもあります。診察室血圧120/80mmHg以上では心血管疾患の発症率が増加します。私は運動をして標準体型であったときは120mmHgぐらいでしたが、今年の検診では140mmHgを超えていたの高血圧と診断されます。

高齢の場合は関連がはっきりしませんが、中年期の場合は認知症のリスクとなりうるとされています。血圧の文献を見るときは診察室血圧なのか家庭血圧なのかの測定条件に注意が必要です。家庭血圧でも測定に幅があるので、毎日なるべく同じ時間で図るのが理想です。毎日きちんと測定して血圧手帳をもってきてくださる患者さんがいますが、凄いなと思います。なかなか習慣付けるのは難しいです。

血圧には日内変動があります。血圧測定は朝と夜に推奨されておりますが、朝が高く夜が10-20%程度低くなるのが正常でdipperと言います。夜間血圧低下が20%以上下がる場合をextreme-dipper、0-10%未満がnon-dipperです。夜が上昇する場合はriserと言います。Dipper以外は脳心血管障害のリスクが上昇します。閉塞性睡眠時無呼吸症候群は二次性高血圧の代表疾患ですが、non-dipperやriserを示すことが多く、無呼吸後に血圧サージがみられ、睡眠時無呼吸症候群の高血圧はAHIより酸素飽和度低下指数(ODI)が関連しているとされています。ガイドラインを読んでいると知らないことが色々でています。睡眠時無呼吸症候群の治療中はAHIや使用率しか患者さんに説明していなかったのですが、ODIも今後説明するようにしようと思います。dipperの方もよく見かけますが、睡眠時無呼吸症候群のチェックもするようにしないといけませんね。

高血圧の有病率は女性では低下傾向ですが、男性ではあまり変わりないようです。ちなみに肥満の割合も男性が増加していますが、女性では増加していないようです。女性は凄いですね。

食塩摂取量が高くなると血圧は上がり、摂取量を減らすと血圧は低下します。私は普段はあまり塩分を意識することがないのですが、コンビニなどでお弁当を買うとその1食でかなり塩分摂取になってしまいますね。注意が必要なのは分かりますが、美味しいもの食べたいと考えると塩分はどうしても多くなってしまいます。。。

若年者ほど高血圧による疾患の障害リスクが高いため検診で指摘された場合は医療機関の受診が必要です。ガイドラインでは検診での血圧が140/90mmHg以上あるいは家庭血圧を5日間以上測定した平均値が135/85mmHg以上で医療機関の受診が勧められています。たまに検診で指摘され、自主的に自宅で測定し持ってきてくれる人もいます。その際はすぐ治療や検査に進めます。自宅での血圧がないと、家庭血圧を測定してまた来てもらうことになるので通院回数が増えてしまいます。

血圧高値の場合は減塩、カリウム摂取、適正体重にする、禁煙などを行い改善していく必要があるとされていますが、それがそもそも難しいから血圧高値を指摘されてしまうんですね。減量も言葉でいうのは簡単で時折やる気もでるのですが、続かないんですよね。

家庭血圧による高血圧診断や降圧薬判定には朝・晩の家庭血圧7日間の平均値で評価します。手首での血圧測定は動脈の圧迫が困難でることがあるため上腕で測定します。高齢者では何度説明しても前腕で測定してきてしまう人もいます。家庭血圧が測定できない場合は診察室血圧で診断や治療を行うしかないですが、診察毎に毎回血圧測定は時間の効率が落ちるのでできれば家庭血圧を測ってきてほしいと思ってしまいます。自動血圧測定器があれば良いのですが。。。

高血圧の患者さんをみるときは高血圧の原因と下記の臓器障害の評価が重要です。

脳;頭部MRI検査、認知機能テスト、抑うつ評価

眼;眼底造影検査

心臓;心電図、心臓超音波、BNP/NT-proBNP

腎臓;eGFR、尿定性検査での蛋白尿あるいは微量アルブミン尿(微量アルブミン尿は保険適応なし)

血管;頸動脈超音波、ABIなど

頸動脈超音波では内膜中膜複合体厚(IMT)やプラーク数、プラーク高を確認します。IMTは1.1mm以上で異常とします。

これらの検査を定期的に行い治療経過を見ていきますが、全て行うのは施設設備によって困難であるため可能な範囲で行う必要があります。

収縮期血圧が治療適応がないけど拡張期血圧が治療適応のあるような孤立性拡張期高血圧はエビデンスがないため積極的な降圧治療は推奨されておらず、収縮期血圧が治療必要な範囲に上昇するまで栄養療法などでの経過観察が望まれます。拡張期血圧が下がらない方は結構多いですが、無理に下げようとすると副作用が生じるため非薬物療法で経過をみるほかなさそうです。

生活習慣は高血圧の管理に重要で食事、体重、運動、飲酒、喫煙などが関連が強いとされています。飲酒に関するリスクは様々な意見があります。虚血性脳卒中に関しては少量の飲酒ではリスクが低いとされていますが、出血性脳卒中は飲酒量増加に伴いリスクは直線的に増加します。虚血性脳卒中も飲酒量の増加でリスクが増大するとの意見もあり一定の見解はありません。飲酒は適量であれば良いのかなと思ってましたが、やはり疾患によって違いますね。塩分は日本のガイドラインでは6g/日未満とされていますが、WHOは5g/日未満、米国心臓病学会は3.8g/日未満が目標としています。随時尿での尿Na/K比は食塩摂取量推定に用いるもので、2未満を目標としています。日本の基準でも難しいと思ってましたが、米国はもっと厳しいんですね。。。肥満の方が多く人種さもあり一概に比較はできないと思いますが。

高血圧治療の薬剤は背景の病態に合わせて調整します。基本的には単剤から開始しますが、高リスクの1度高血圧やⅡ度以上の高血圧では2剤併用で開始します。配合剤は保険適応の関係で初回からの導入はできません。私はCa拮抗薬とARBの組み合わせを使うことが多いです。それでもだめならARNIに切り替えるか少量のサイアザイド系利尿薬を開始しています。この組み合わせは患者さんの背景によって調整する必要があります。Ca拮抗薬は夜間頻尿の原因となることがあります。β遮断薬は糖・脂質代謝に悪影響を及ぼすとされており、積極適応をしっかり判断することが大切です。ロサルタン、イルベサルタン、エンレスト®には尿酸降下作用がありますが、サイアザイド系利尿薬やループ利尿薬、β遮断薬は尿酸上昇作用があるため尿酸に関しても気にしながら薬剤調整を行います。ACE阻害薬は副作用で咳をきたすことがありますが、ARBは気道過敏性を減少される可能性があるため喘息でも使いやすいです。喘息患者で高用量のステロイドやβ刺激薬が使用されている場合は低K血症に注意が必要です。ARBなどはK上昇作用があるため、Kの値も注意して経過を見る必要があります。β遮断薬は喘息に対しては慎重に経過を見る必要がありますが、心疾患がある患者のβ遮断薬はCOPD患者では安全で予後改善効果が報告されているため、COPDが背景にあっても心疾患優先でよさそうです。

慢性期脳梗塞は130/80mmHg未満、脳出血慢性期は130/80mmHg未満(できれば120/80mmHg未満)、心不全130/80mmHg未満、慢性腎臓病130/80mmHg、大動脈瘤130/80mmHg、糖尿病合併高血圧130.80mmHg未満とガイドラインに記載があるような疾患はほぼ全て130/80mmHg未満です。基本的には家庭血圧で薬剤調整をすることが多いため、さらに低い家庭血圧125/75mmHg以下でコントロールすることが重要です。ただしこれはあくまで外来に来れるような患者さんに対する数値です。ADLが低下して訪問診療などを行っている場合は収縮期血圧150mmHg以下、終末期であれば収縮期血圧140-160mmHg以内を目安として薬剤の減量や中止を考慮します(背景疾患によってはそのまま治療継続が必要なこともあり個別での判断が大切)。終末期であれば患者さんが今まで内服していた薬なので本人の気持ちを考えて継続することもあります。生命予後改善効果がなくとも最後まで降圧治療を行うことが本人の救いとなることもあると思います。降圧薬でめまいやふらつき、頭重感などを訴える患者さんは比較的多いと感じます、降圧による脳循環不全の症状なのか、薬剤の副作用なのか判断は難しいです。血圧が140mmHgぐらいと降圧ができていないにも関わらずめまいを訴える患者さんもいますが、そういった場合は降圧薬を変更する必要があります。降圧薬を新規処方した場合や変更した場合、私は1か月後に血液検査で腎機能など副作用がないか確認しております。肝酵素が上昇してしまう患者さん、ARBで腎機能悪化する患者さんなどは時折います。ARBでの腎機能悪化は一時的なイニシャルドロップの可能性もあり、より慎重に経過を見るか腎動脈狭窄を精査するかになると思いますが、腎動脈狭窄は一般にクリニックだとなかなか検査が難しいです。

サイアザイド系利尿剤を含む異なるクラスの降圧薬を3剤使用してもコントロール不良の場合治療抵抗性高血圧と言います。服薬アドヒアランスや二次性高血圧、過度な飲酒や喫煙、運動不足、食生活などの生活習慣の問題などがあります。睡眠時無呼吸症候群と高血圧の合併はよく見かけますが、睡眠時無呼吸症候群もCPAP治療がなかなか難しい人がいます。マスクの圧やひもが気になったり、寝ているうちに外してしまうなどです。どうしてもCPAP治療が難しければ歯科に依頼してマウスピース治療の適応を評価してもらうことも選択肢の1つです。喫煙をずっとしてるため血圧が下がらない人も時折みます。二次性高血圧では原発性アルドステロン症を比較的よく見ます。他院で高血圧と低K血症をずっと内服のみで治療されている方を何度か目にしたことがあります。一度は二次性を疑って検査が必須です。

参考文献

高血圧管理・治療ガイドライン2025.日本高血圧学会.

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