骨粗鬆症

骨は破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成を繰り返す(骨リモデリング)臓器であり、カルシウムやリンの貯蔵庫としての役割があります。さらにその中の骨髄には造血機能もあります。カルシウムやリンは慢性腎臓病の際にも計測しますし、汎血球減少やLDH高値であれば骨髄疾患を疑うように骨は内科とも関連が深いです。深いんですが、そこまで意識して診察するのことに私はまだ慣れていません。

通常は骨吸収と骨形成は同量に生じるため骨量はリモデリングにより変化はしません。これを骨吸収と骨形成のカップリングと言いますが、このカップリングが崩れると骨粗鬆症に至ります。特に女性は閉経後に骨粗鬆症になりやすいですが、これはエストロゲンの欠乏により骨吸収が増大するためです。女性は閉経後に高血圧なども増加するとされているため、閉経期の診療は結構難しいなと感じて毎日診察しています。大腿骨頸部で診断された骨粗鬆症の推定有病者数は約1070万人とされています。約10人に1人って相当多いと思います。若年では疾患頻度は低いと思われるので、外来でみる患者さんの中に相当数いるのでしょうか。きっと私は見逃しているのでしょうが、骨折の病歴がなければ頭に浮かんですらきません。

原発性骨粗鬆症の診断は脆弱骨折の有無と骨密度によって診断します。

  • 椎体骨折か大腿骨近位部骨折。
  • その他の脆弱骨折(肋骨、骨盤、上腕骨近位部、頭骨遠位端、下腿骨)+骨密度がYAM値の80%未満。
  • 骨密度がYAM値の70%以下あるいは-2.5SD以下

上記のいずれかで診断します。つまり臨床症状がなくても検査だけで診断できる例もあるということです。症状がない場合は検診やその他の疾患関連で検査したときに診断されることになると思います。YAMとは健常若年成人の平均値のことです。

骨粗鬆症を診断した場合に続発性骨粗鬆症をきたす疾患の検索が必要です。原発性副甲状腺機能亢進症、甲状腺中毒症、性腺機能低下症、クッシング症候群などの内分泌疾患、吸収不良症候群や胃切除既往などの栄養に関する病態、ステロイドなどの薬剤、骨形成不全症やマルファン症候群などの先天性疾患、不動性、関節リウマチ、糖尿病、慢性腎臓病、COPDなども検索が必要です。ACTH、コルチゾール、TSH、FT4、FSH、LH、遊離テストステロン、成長ホルモンなどの検査が必要です。血清カルシウムやリン濃度に異常がある際は副甲状腺ホルモンは必須の項目になります。血清リンは食後に細胞内に移動してしまうため、食後採血では低リン血症になっていることがあり解釈に注意が必要です。

ステロイドや糖尿病で生じる続発性骨粗鬆症は骨密度低下がみられない段階でも骨折リスクは増加しています。

ビタミンD欠乏はくる病や骨軟化症にも関係してきます。血液検査で25(OH)Dを測定し20ng/mL未満はビタミンD欠乏、30ng/mL未満はビタミンD不足と判断します。この骨粗鬆症以外で易骨折性や骨密度低下を示す疾患があります。骨軟化症や多発性骨髄腫、線維性骨異形成症、強直性脊椎炎などです。骨粗鬆症を診断したときはCaやP、intactPTHなどは必ず確認すること、典型的ではない経過をたどる場合は再確認することが重要です。疼痛があり線維筋痛症と診断されているような症例でも、一度これらの疾患は確認しても良いと思います。

以前若年者の骨粗鬆症の既往がある患者さんを入院でみたことがあるのですが、その際は病院の転院を繰り返しており、どこかで情報が抜け落ちていき二次性なのか、精査したのかなどの情報がないことがありました。診療情報提供書は前医の分もつけて紹介した方が手っ取り早くて確実ですね。前医の紹介状もつけてくれる先生もいて、大変助かります。私は訪問診療をやるようになってから紹介状をより一層注意して記載するようになりました。その前は、おそらく抜け落ちた情報を紹介先に送っていたと思います。

骨粗鬆症の治療の目的は脆弱骨折の予防です。治療評価は治療開始後の骨折発生の有無、骨量変化の推移、骨代謝マーカーの推移をみて総合的に判断することが重要です。これは治療によって骨量が増加しても骨折抑制効果との強い関連を指摘できなかったためです。椎体骨折には症状のある臨床骨折と症状のない形態骨折があるため、定期的に画像の評価も重要と考えます。X線は以前と比較すると分かりやすいですが、初めての1枚は私には結構自信がないです。CTであれば読影依頼で対応できますが、X線装置しかない施設での診療の場合は腕が試されます。なるべく設備が整った環境の方が安心ですね。

骨代謝マーカーは病態評価や薬剤選択、治療効果判定に用いますが診断には利用しません。診断時と治療開始後6カ月以内の測定で保険適応があります。骨代謝マーカーには吸収マーカーと形成マーカーがあり、それぞれ1種類ずつ測定します。施設で慣れている項目で良いと思いますが、腎機能低下の影響を受けるマーカーもあるため注意が必要です。腎機能の影響を受けない組み合わせの例はTRACP-5b(吸収マーカー)、BAP(形成マーカー)です。治療によって骨吸収マーカーが最初に変化し、その3か月程度あとから骨形成マーカーが変化するため治療開始後から3-6カ月後に再度マーカーを測定して判断します。

この骨代謝マーカーは日内変動があり、朝に高く、夜に低下します。ただし上記のTRACP-5b、BAPは日内変動が少ないです。しかし正確な評価のために毎回測定時間は同じにして評価する必要があります。外来では予約の関係で同一時刻って結構難しいです。施設毎にプロトコルを決めて別に予約枠などあれば良いのですが、医療資源も限られており可能な範囲で行うことが重要だと思います。

治療不応の場合はカルシウム不足や25(OH)D不足を考慮します。効果判定に骨代謝マーカーの測定が役立ちます。最小有意変化(MSC)を超える低下があれば治療効果ありと考えます。TRACP-5b(EIA法)のMSCは12.4%、BAP(CLEIA法)のMSCは9%です。6カ月以上継続している状態での治療効果は骨密度や骨折の有無で判断しますが、骨密度は加齢で減少していくため、維持できていれば治療効果はあると考えて良いと思います。

胃切除の既往がある場合は経口ビスホスホネート製剤ではなく静注製剤など別の投与経路を選択します。

治療経過中は活性型ビタミンD3製剤の使用で高Ca血症や高Ca尿症になるため長くとも3か月毎に評価し薬剤調整を行います。薬剤性の高Ca血症による意識障害は時折目にします。内服している患者さんは多いため頻度としては少ないのかも知れませんが、生じると重大なため普段から患者教育が大切ですね。ただ高齢者では脱水のリスクも高く、注意力も低下していると考えられるため内服の適応をしっかり考慮する必要があります。

ビスホスホネートは長期使用で非定型大腿骨骨折や顎骨壊死などの合併症の可能性があります。そのため、脆弱骨折などを来さなければ、経口では5年、静注では3年継続し休薬を考慮できます。その場合は2年程度で骨密度を測定し5%以上の低下があれば治療再開を検討できますが、日本人のデータではないため注意が必要とされています。アレンドロン酸を10年以上の継続した研究もあり、長期での治療も有用なことがあるため、必要に応じて治療延長も有用と考えられます。私は5年程度継続して脆弱骨折がなければ一旦休薬をしています。ビスホスホネートを入院で開始する際に、病棟まで歯科医が往診している施設もあるようです。私は歯関連は全て歯科医に丸投げしています。

参考文献

Yoshimura N,et al:J Bone Miner Metab.2009;27(5):620-628.

Cummings SR,et al:Am J Med.2002:112(4):281-289.

骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編.2015.

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