鉄欠乏性貧血は、文字通り体内の鉄が不足することによって生じる貧血です。患者数はかなり多いです。何かの理由で血液検査をとり、貧血があり確認すると「昔から言われているけど特に治療をしていない」という患者さんが多いです。
鉄欠乏性貧血の症状は動悸、息切れ、疲れやすさ、異食症、下肢の不快感(むずむず脚症候群)、不眠がなどが生じます。また、組織の鉄欠乏による症状として脱毛や鉄の変形、舌のしみり感、喉頭違和感、嚥下困難があります。乳幼児期では発育発達障害がみられることもあるようです。喉頭違和感を訴える患者さんは外来で非常に多く見かけます。私の場合は喘息に対して吸入薬を処方し、それが原因であることが多いのですが、吸入薬を変えても改善せず、やめても改善しないため耳鼻科を受診してもらいますが、やはり何もないということが今まで結構多かったです。そういった患者さんには鉄をチェックした方が良いのかーと書きながら考えています。
鉄欠乏の原因は主に性器や消化管からの出血、妊娠、筋肉量の増加、鉄の摂取不足、ピロリ菌感染、PPIの長期内服、慢性炎症などがあります。若い女性に多い疾患で、どこまで精査するかは判断に迷うことが多いです。婦人科を受診してくださいとお願いしても受診しないことが多いので、私は自身で腹部CTをとることもよくあります(外勤先では腹部MRIを撮影します)。以外と子宮筋腫などの疾患が見つかることが多いです。ベストは婦人科を受診しエコーでの検査が良いのかもしれませんが、現実はあまりうまくいきません。
診断は貧血があり、TIBCが360μg/dL以上、血清フェリチン12ng/mL未満を満たす場合です。貧血がないけどフェリチン12ng/mL未満は潜在性鉄欠乏であり、鉄欠乏性貧血に進行します。この鉄欠乏の状態でも症状をきたすことはあるため、良くわからない症状の人はフェリチンを調べることを良くするのですが、その場合は低下していないことが多く、低下していて治療しても症状の改善を認めないこともあります。非特異的な症状の診察はやはり難しいです、
心疾患や腎疾患がある場合はフェリチンは高めにでることがあるとされています。そのため、CKDではフェリチン50ng/mL未満は鉄補充したほうが良く、50-100gn/mLの場合はTSATが20%あるか確認し、なければやはり鉄補充した方が良いとされています。CKDの人はエリスロポエチンの低下ばかりに目を向けず鉄とセットに考えることが重要です。
治療は基本的には経口鉄剤です。経口鉄剤を使用しない状況があり、潰瘍性大腸炎やクローン病(鉄剤が腸管に悪影響)、ウイルス性肝炎・肝硬変(過剰鉄が幹細胞障害をきたす)がその例です。
私は以前からフェロミア®50mgで開始し悪心や便秘、下痢などの副作用で継続できない場合はインクレミン®シロップを2ml/日で開始し10ml/日ぐらいまで時間をかけて増量する治療を行っておりましたが、最近はリオナ®を用いることも増えました。
たまにですが鉄剤で蕁麻疹をきたす人がいます。そういった人にインクレミンを開始して経過をみたことがあるのですが、最初は問題ないのですがしばらくすると蕁麻疹が出現して中止となりました。1-2mL/日でも継続は難しかったです。そういった患者さんには栄養指導などの食生活の改善でみるしかないのかなと思います。
内服しているにも関わらず改善しない場合は内服薬の飲み合わせや貧血の原因を再検索する必要があります(ピロリ菌も経口鉄剤不応性の原因となります)。
鉄欠乏性貧血はかなりありふれた疾患で日常的に目にします。なるべく情報をアップデートして、うまく治療を行っていきたいです。
参考文献
World Health Organization.WHO guideline on use of ferritin concentrations to assess iron status in individuals and populations.2020.
鉄欠乏性貧血の診療指針.日本鉄バイオサイエンス学会.
