過敏性肺炎は抗原の反復吸入により胞隔や細気管支に炎症を来すアレルギー疾患です。Ⅲ型アレルギーとⅣ型アレルギーが関与しています。過敏性肺炎と過敏性肺臓炎のどちらを使うかという議論がありますが、科によって過敏性肺炎という科、過敏性肺臓炎という科があるようです。呼吸器内科が診ることが多いためか過敏性肺炎という文字をみることが多い気がします。私は過敏性肺炎として覚えたので、学術的な議論的な正確性より使いやすいから使っております。
以前は急性過敏性肺炎、慢性過敏性肺炎と分類していましたが、現在は非繊維性過敏性肺炎、繊維性過敏性肺炎の分類が採用されています。これは急性、慢性よりも線維化の有無の方が疾患進行や予後に影響がある報告を反映してのものです。現場では今でも急性、慢性の言葉は使っていますが、今後は少なくなっていくのかも知れません。
この過敏性肺炎は原因によって鳥関連過敏性肺炎、夏型過敏性肺炎、住居関連過敏性肺炎、農夫肺、塗装工肺などと名前が変わります。原因は300種類以上とされています。原因が明らかであればいいですが、明らかにならない場合も多いのでその際は単に過敏性肺炎と言うに留まります。鳥関連となっている通り、鳥そのもののみではなく羽毛布団やダウンジャケットなどの羽毛製品、鶏糞肥料なども原因となります。同一環境にいないのに家族発症する症例もあり、遺伝的な要因の関与もありそうです。湿った畳などでも住居関連過敏性肺炎をきたしたりします。私の自宅にも畳がありますが、近々フローリングにリフォーム予定です。急性夏型過敏性肺炎は季節的には6月頃より発症し11月頃に改善する咳嗽で、約8割に発熱を伴いますがトリコスポロンアサヒ以外の真菌が原因の場合は実臨床では抗体が測定できないため原因の診断は困難です。季節性の咳嗽は喘息だけでなく過敏性肺炎も鑑別に入れて診療する必要がありそうです。住居関連過敏性肺炎は環境中の真菌が原因であることが多いですが、こちらも実臨床では測定できる抗体はありません。
過敏性肺炎の症状は呼吸困難や咳嗽、発熱、胸部圧迫感、喘鳴などがみられます。非繊維性過敏性肺炎は急性~亜急性の経過であり、抗原暴露後4時間程度してから症状が発症し、抗原回避で2日程度で症状の改善を認めますが、改善に数週間を要することもあります。症状だけでは他の呼吸器疾患と区別するのは難しそうで、症状が重いあるいは長引いているから胸部CTを撮影して本疾患を疑うということが多いです。以前外来で、友達の家に行ったら息苦しくなったという人がいて、喘息かなと思って胸部CTを撮影したら過敏性肺炎を疑う所見でした。自宅で発症した訳ではないのでその人の家に行かなければ良いだけであったので経過観察のみで改善しました。人によっては加湿器を付けたら咳嗽がでてきて、止めたら良くなってきたと自己申告してくれる場合があり、非常に助かります。
過敏性肺炎の原因抗原の特定は診断の確信度と抗原回避による予後改善に必要ですが、特定困難なことも多く、50%程度特定できなかったという報告もあります。鳥関連やトリコスポロン・アサヒなど血液検査である程度予測できるようなら良いですが、それ以外では特定はかなり難しいです。ガイドラインに記載されている質問票を患者さんに渡して網羅的に行わないと難しいです。1から全て診察室で問診で確認していくことは現実的ではないと思います。
現在原因抗原の特定に関して保険適応のあるものはトリコスポロン・アサヒ、ハト、セキセイインコの鳥抗原のみです。これはセキセイインコIgG抗体です。セキセイインコIgE抗体ではありません。IgE抗体は主にⅠ型アレルギーに関与しているもので、過敏性肺炎はⅢ型が関与しています。この鳥抗原はその他の鳥類と交差反応性があるため、ハトやセキセイインコ以外の鳥が原因となっている鳥関連過敏性肺炎でも陽性となります。ただし抗体が陽性というのは感作されていることを示しているだけで、原因抗原となっているかの断定まではできません。ここが難しいところで、検査陽性=鳥関連過敏性肺炎と診断できないので苦労します。
好熱性放線菌は農夫肺の原因となったり、Candida albicansなども過敏性肺炎の原因となったりしますが、検査法として確立されていないため、実臨床では検査は難しいです。病態にはⅣ型アレルギー(感作リンパ球が関与したもの)も関係しているため、リンパ球刺激試験の有用性も期待されていますが、こちらも抗原が市販されておらず実臨床では使用できません。いつかは全て外来で検査が行える日が来るのでしょうか。検査が増えると医師が考える事も増えるので年々大変になっていきます。。。
血液検査ではKL-6やSP-Dが有用とされています。繊維性過敏性肺炎ではSP-Dが高いほど予後が悪いとの報告もあります。季節性にでる咳嗽は喘息とイメージがありますが、過敏性肺炎も季節性にでることがあり、KL-6の季節変動性があるようであれば過敏性肺炎の可能性があります。冬に上昇する場合は羽毛布団などの鳥関連過敏性肺炎の可能性があり、夏に上昇するなら夏型過敏性肺炎の可能性があります。KL-6は非小細胞肺癌や乳癌、膵癌、卵巣癌でも上昇します。
画像所見では通常の5mmスライスのCTでは血管を粒状影と見間違えたりすることがあるため1.25mm以下のスライスにしてみることが推奨されています。胸部CTで小葉中心性の粒状影や呼気CTのair trappingを認めた場合は細気管支病変を疑います。すりガラス影やモザイクパターンは肺野病変を疑いますが、モザイクパターンやair trappingは喫煙者や健常人でも見られることがあります。線維化性過敏性肺炎では両側肺尖部にコンソリデーションを認めることがありますが、これは炎症ではなく線維化を示しています。この両側肺尖部の陰影は通常の外来でも多く目にします。過敏性肺炎なのか、陳旧性の炎症なのか、区別するためには下葉の情報も考えながら行います。
CT所見は非繊維性過敏性肺炎と繊維性過敏性肺炎で異なります。それぞれにTypicalな所見があります。非繊維性過敏性肺炎では両肺びまん性の小葉中心性右粒状影やすりガラス影を認め、繊維性過敏性肺炎では両肺びまん性の網状影や牽引性気管支拡張、すりガラス影、小葉単位の低吸収域などを認めます。最近は間質性肺炎においては、内科医、病理医、放射線科医との意見をすり合わせて診断を深めていくことが重要と考えられており、間質性肺炎を疑ったら読影依頼を提出する必要があります。院内に全ての科がそろっている場合は必要ないと思いますが、科がそろうことは通常の病院ではないと思います。
過敏性肺炎の診断はCT所見、抗原暴露歴や血清IgG抗体の有無、気管支鏡結果(BALや組織生検)を組み合わせて判断します。典型的な画像所見で抗原暴露歴が確認でき、BALでリンパ球増加、病理所見で典型的な像を確認できれば確実例として診断できます。画像も典型的でなく、抗原暴露歴も確認できずBALでも病理組織検査も合致しない場合でも完全に過敏性肺炎を除外できる訳ではないとされています。私は気管支鏡が行える環境にないため、画像と血液検査、病歴で判断し外来でフォローしています。
治療は抗原回避、薬物治療です。
原因となる抗原を回避し、症状や肺活量、KL-6、WBC、画像所見、拡散能などを見て総合的に治療効果は判断します。抗原回避してもすぐは良くならず、2週間程度で改善する場合もあれば1カ月以上かかることもあります。抗原回避は入院やホテルへの宿泊が必要ですが、金銭面や家庭を考えると入院一択だと思います。最近はビジネスホテルも相当高いです。
薬物治療は明確にエビデンスがある薬剤は現在ありませんが、ステロイドや抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテタニブ)などが用いられます。非繊維性過敏性肺炎に対しては抗原回避が困難あるいは呼吸不全がある場合にプレドニゾロンを使用します。呼吸不全が高度な場合はステロイドパルス療法を行うこともあります。状態が安定したら漸減していき終了を目指します。繊維性過敏性肺炎に対してはプレドニゾロンを使用し、症状が進行する場合や症状が抑えているがステロイド長期使用が問題になる場合はアザチオプリンを併用することもありますが、保険適応はありません。線維化が進行する場合はニンテタニブに切り替えステロイドは終了します。
過敏性肺炎の合併症には肺気腫、肺癌、気胸や縦隔気腫、肺高血圧、急性増悪などがあります。肺気腫は非喫煙者にも生じ、air trappingが関与している可能性があるとされています。間質性肺炎と肺気腫が合併している状態は気腫合併肺線維症と言いますが、この病名には賛否があります。肺癌は扁平上皮癌が多いとされています。気胸や縦隔気腫はステロイド投与との関連の可能性もあり、ステロイド投与は難治化の原因となりうるため可能であれば減量が必要です。DLco低値は急性増悪のリスクとなるため、低値な症例は外来でのフォローや画像撮影の頻度を短くしても良いかもしれません。
ちなみに、私は気腫合併肺線維症は喫煙者で生じると思っており、過敏性肺炎でも生じる可能性があると知って目から鱗でした。
参考文献
Raghu G,et al.Am J Respir Crit Care Med 2020;202:e36-e69.
Okamoto T,et al.Respiration 2013;85:384-390.
過敏性肺炎診療指針2022.日本呼吸器学会.
Ejima M,et al.Respir Ibvestig.
