アルツハイマー病は大脳皮質や海馬に老人斑や神経原線維変化が健常な高齢者より多く生じることにより脳が萎縮することによって認知症をきたす疾患です。
進行性の疾患であり、アルツハイマー型認知症を疑っているのに認知症が進行しない場合は他疾患の可能性を考慮する必要があります。1年前と比較して変わりないと家族が言ったら正常な加齢性変化も考えます。
記憶障害から始まり、重度にならないと運動や歩行障害はきたさないため元気に歩いて外来にきます。レビー小体型認知症はパーキンソニズムをきたしたり、脳血管性認知症は障害部位によって麻痺などあるから歩行はスムーズでないですが、アルツハイマー型認知症は結構スムーズであるから見ただけだと認知症とは思えないです。また、病識に乏しく診察室で会話していると結構会話が成り立ちます。だから家族の訴えがあるか、意識して問診しないと見逃したりしやすいです。私は80歳以上の高齢者がきたら、認知機能低下は少なくともあるだろうなと考えながらお話しています。
海馬の萎縮から始まり進行すると頭頂葉や前頭葉、後頭葉も萎縮していき、やがて無動、無言となり寝たきりの状態を得て死に至る経過をたどります。その間に誤嚥性肺炎や胆管炎などなにかしらの感染症を来して入院することも多く、認知症のみで自宅で穏やかに亡くなるということは、私はあまり経験しません。
記憶はエピソード記憶(出来事;先月娘と食事をした)と意味記憶(普遍的心理;千葉県は関東だ)からなる陳述記憶と、縄跳びの飛び方などの非陳述記憶からなります。アルツハイマー型認知症はエピソード記憶→意味記憶→非陳述記憶の順で障害が進行していきます。物忘れに加えてその他の認知機能障害の症状があることが診断に重要です。
認知症の診断は問診で認知症を疑う症状を確認すること、認知機能検査で客観的な点数の確認をすること、社会生活に支障があること、他疾患の除外をすることで行います。認知機能低下が急性ならせん妄を疑い原疾患や薬剤を確認が必要です。臨床表現型のみでアルツハイマー病を診断すると約30%程度に偽陰性や擬陽性が混在するためバイオマーカーでの診断が必須にななりました。血液バイオマーカーのp-tau217は診断精度が高いため今後応用が期待されます。ただ比較的若い軽度認知障害であれば新薬である抗Aβの適応がありPETや脳脊髄液検査などの検査が必要かもしれませんが、高齢者であれば抗Aβ薬のための通院が難しかったりするのでバイオマーカー検査はそこまで必須なのかなと思いながら診察をしています。私は80歳や85歳ぐらいの患者さんには臨床診断でコリナージック薬を処方しています。
問診では記憶障害(物忘れ)、自発性の低下や意欲低下、日時や季節が分かるかどうか、怒りっぽくなったかどうかなどを確認します。今までできてたことができなくなることが認知症の特徴であり、すぐに手伝いを求めるようになったり、質問してもすぐ分からないと言ったりして考えこまずに返事がでてきます。その時は笑顔なことが多い気がします。
認知機能検査は改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)などを使用します。
専門医療機関に紹介した方がよい事例は川畑先生の著書「かかりつけ医・非専門医のための認知症診療メソッド 改訂2版;南山堂」によると①認知症の有無を判断できないあるいは診断に自信がない時、②アルツハイマー型認知症あるいは血管性認知症として非典型例、③認知症はあるが病態分類できない時、④徘徊や暴力行為などのBPSDコントロール困難例、⑤セカンドオピニオン、であると述べられています。こういった目安を記載して頂けるのはすごくありがたいです。ただ紹介してもHDS-Rの結果認知症でドネペジル開始しました、あとは継続お願いしますと返信が返ってくるだけのことも多いです。これは紹介する病院によって対応はまちまちと思いますが、丁寧に返信をくれる先生もいて、そういった場合はとても勉強になります。
BPSDには不眠、幻覚、妄想、うつ、不安、興奮、暴力、不潔行為、徘徊、異食、過食、依存、焦燥などがあります、うつ以外は結構周囲が困ります(家族も私も)。このBPSDは認知症の程度と相関なく出現します。また最近はMCIの重要度が高くなってきており、BPSDではなくNPSが使用(Dがdementiaのため)されるようになってきている。このBPSD(NPS)は認知症の程度と相関しないというのは結構目から鱗でした。認知機能検査で少し点数低いけどあまり記憶障害のエピソードは目立たない、でも不安や焦燥感が強い患者さんにも認知症疑いでドネペジルなど始めたりしても良いのかと感動を覚えました。
物を片付けても片付けた事自体を忘れてしまうため、その物を他人にとられたという妄想(物盗られ妄想)をきたすことがあります。
頭部CTや頭部MRIでは大脳皮質の萎縮を反映して脳室の拡大や脳溝の拡大を認め、これが認知機能低下につながります。海馬の萎縮は記銘力の低下につながるようです。
治療はドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンなど(コリナージック薬)を用います。最近は抗Aβ薬としてレカネマブ(レケンビ®)とドナネマブ(ケサンラ®)が使用されるようになってきています。レケンビ®は隔週、ケサンラ®は月1回でどちらも点滴注射で投与します。この抗Aβ薬の出現で軽度認知障害(MCI)の段階で薬物療法が可能になったことはかなりの進歩だと思いますが、通院の負担や検査の負担があり恩恵を受けれる人数はまだまだ少ないと思います。今後はどんな薬がでてきくるのでしょうか。
参考文献
病気が見えるvol7 脳・神経;MEDIC MEDIA
川畑信也;かかりつけ医・非専門医のための認知症診療メソッド改訂2版;南山堂
Medical Practice vol.42 no.5 2025.