高血圧

高血圧は家庭血圧で135/85mmHg以上の場合に診断します。家庭血圧115/75未満が正常血圧で高血圧と正常血圧の間は値によって正常高値血圧、高値血圧となります。収縮期血圧と拡張期血圧が異なる分類にまたがるときは、高い方の分類として判定します。

高血圧は脳卒中や冠動脈疾患の最大のリスク因子です。120/80mmHg未満で全年齢で死亡リスクが低いとされており、この関連は拡張期血圧よりも収縮期血圧でより強いとされています。また、CKDや心不全、心房細動の発症のリスク因子でもあります。診察室血圧120/80mmHg以上では心血管疾患の発症率が増加します。私は運動をして標準体型であったときは120mmHgぐらいでしたが、今年の検診では140mmHgを超えていたの高血圧と診断されます。

高齢の場合は関連がはっきりしませんが、中年期の場合は認知症のリスクとなりうるとされています。血圧の文献を見るときは診察室血圧なのか家庭血圧なのかの測定条件に注意が必要です。家庭血圧でも測定に幅があるので、毎日なるべく同じ時間で図るのが理想です。毎日きちんと測定して血圧手帳をもってきてくださる患者さんがいますが、凄いなと思います。なかなか習慣付けるのは難しいです。

血圧には日内変動があります。血圧測定は朝と夜に推奨されておりますが、朝が高く夜が10-20%程度低くなるのが正常でdipperと言います。夜間血圧低下が20%以上下がる場合をextreme-dipper、0-10%未満がnon-dipperです。夜が上昇する場合はriserと言います。Dipper以外は脳心血管障害のリスクが上昇します。閉塞性睡眠時無呼吸症候群は二次性高血圧の代表疾患ですが、non-dipperやriserを示すことが多く、無呼吸後に血圧サージがみられ、睡眠時無呼吸症候群の高血圧はAHIより酸素飽和度低下指数(ODI)が関連しているとされています。ガイドラインを読んでいると知らないことが色々でています。睡眠時無呼吸症候群の治療中はAHIや使用率しか患者さんに説明していなかったのですが、ODIも今後説明するようにしようと思います。dipperの方もよく見かけますが、睡眠時無呼吸症候群のチェックもするようにしないといけませんね。

高血圧の有病率は女性では低下傾向ですが、男性ではあまり変わりないようです。ちなみに肥満の割合も男性が増加していますが、女性では増加していないようです。女性は凄いですね。

食塩摂取量が高くなると血圧は上がり、摂取量を減らすと血圧は低下します。私は普段はあまり塩分を意識することがないのですが、コンビニなどでお弁当を買うとその1食でかなり塩分摂取になってしまいますね。注意が必要なのは分かりますが、美味しいもの食べたいと考えると塩分はどうしても多くなってしまいます。。。

若年者ほど高血圧による疾患の障害リスクが高いため検診で指摘された場合は医療機関の受診が必要です。ガイドラインでは検診での血圧が140/90mmHg以上あるいは家庭血圧を5日間以上測定した平均値が135/85mmHg以上で医療機関の受診が勧められています。たまに検診で指摘され、自主的に自宅で測定し持ってきてくれる人もいます。その際はすぐ治療や検査に進めます。自宅での血圧がないと、家庭血圧を測定してまた来てもらうことになるので通院回数が増えてしまいます。

血圧高値の場合は減塩、カリウム摂取、適正体重にする、禁煙などを行い改善していく必要があるとされていますが、それがそもそも難しいから血圧高値を指摘されてしまうんですね。減量も言葉でいうのは簡単で時折やる気もでるのですが、続かないんですよね。

家庭血圧による高血圧診断や降圧薬判定には朝・晩の家庭血圧7日間の平均値で評価します。手首での血圧測定は動脈の圧迫が困難でることがあるため上腕で測定します。高齢者では何度説明しても前腕で測定してきてしまう人もいます。家庭血圧が測定できない場合は診察室血圧で診断や治療を行うしかないですが、診察毎に毎回血圧測定は時間の効率が落ちるのでできれば家庭血圧を測ってきてほしいと思ってしまいます。自動血圧測定器があれば良いのですが。。。

高血圧の患者さんをみるときは高血圧の原因と下記の臓器障害の評価が重要です。

脳;頭部MRI検査、認知機能テスト、抑うつ評価

眼;眼底造影検査

心臓;心電図、心臓超音波、BNP/NT-proBNP

腎臓;eGFR、尿定性検査での蛋白尿あるいは微量アルブミン尿(微量アルブミン尿は保険適応なし)

血管;頸動脈超音波、ABIなど

頸動脈超音波では内膜中膜複合体厚(IMT)やプラーク数、プラーク高を確認します。IMTは1.1mm以上で異常とします。

これらの検査を定期的に行い治療経過を見ていきますが、全て行うのは施設設備によって困難であるため可能な範囲で行う必要があります。

収縮期血圧が治療適応がないけど拡張期血圧が治療適応のあるような孤立性拡張期高血圧はエビデンスがないため積極的な降圧治療は推奨されておらず、収縮期血圧が治療必要な範囲に上昇するまで栄養療法などでの経過観察が望まれます。拡張期血圧が下がらない方は結構多いですが、無理に下げようとすると副作用が生じるため非薬物療法で経過をみるほかなさそうです。

生活習慣は高血圧の管理に重要で食事、体重、運動、飲酒、喫煙などが関連が強いとされています。飲酒に関するリスクは様々な意見があります。虚血性脳卒中に関しては少量の飲酒ではリスクが低いとされていますが、出血性脳卒中は飲酒量増加に伴いリスクは直線的に増加します。虚血性脳卒中も飲酒量の増加でリスクが増大するとの意見もあり一定の見解はありません。飲酒は適量であれば良いのかなと思ってましたが、やはり疾患によって違いますね。塩分は日本のガイドラインでは6g/日未満とされていますが、WHOは5g/日未満、米国心臓病学会は3.8g/日未満が目標としています。随時尿での尿Na/K比は食塩摂取量推定に用いるもので、2未満を目標としています。日本の基準でも難しいと思ってましたが、米国はもっと厳しいんですね。。。肥満の方が多く人種さもあり一概に比較はできないと思いますが。

高血圧治療の薬剤は背景の病態に合わせて調整します。基本的には単剤から開始しますが、高リスクの1度高血圧やⅡ度以上の高血圧では2剤併用で開始します。配合剤は保険適応の関係で初回からの導入はできません。私はCa拮抗薬とARBの組み合わせを使うことが多いです。それでもだめならARNIに切り替えるか少量のサイアザイド系利尿薬を開始しています。この組み合わせは患者さんの背景によって調整する必要があります。Ca拮抗薬は夜間頻尿の原因となることがあります。β遮断薬は糖・脂質代謝に悪影響を及ぼすとされており、積極適応をしっかり判断することが大切です。ロサルタン、イルベサルタン、エンレスト®には尿酸降下作用がありますが、サイアザイド系利尿薬やループ利尿薬、β遮断薬は尿酸上昇作用があるため尿酸に関しても気にしながら薬剤調整を行います。ACE阻害薬は副作用で咳をきたすことがありますが、ARBは気道過敏性を減少される可能性があるため喘息でも使いやすいです。喘息患者で高用量のステロイドやβ刺激薬が使用されている場合は低K血症に注意が必要です。ARBなどはK上昇作用があるため、Kの値も注意して経過を見る必要があります。β遮断薬は喘息に対しては慎重に経過を見る必要がありますが、心疾患がある患者のβ遮断薬はCOPD患者では安全で予後改善効果が報告されているため、COPDが背景にあっても心疾患優先でよさそうです。

慢性期脳梗塞は130/80mmHg未満、脳出血慢性期は130/80mmHg未満(できれば120/80mmHg未満)、心不全130/80mmHg未満、慢性腎臓病130/80mmHg、大動脈瘤130/80mmHg、糖尿病合併高血圧130.80mmHg未満とガイドラインに記載があるような疾患はほぼ全て130/80mmHg未満です。基本的には家庭血圧で薬剤調整をすることが多いため、さらに低い家庭血圧125/75mmHg以下でコントロールすることが重要です。ただしこれはあくまで外来に来れるような患者さんに対する数値です。ADLが低下して訪問診療などを行っている場合は収縮期血圧150mmHg以下、終末期であれば収縮期血圧140-160mmHg以内を目安として薬剤の減量や中止を考慮します(背景疾患によってはそのまま治療継続が必要なこともあり個別での判断が大切)。終末期であれば患者さんが今まで内服していた薬なので本人の気持ちを考えて継続することもあります。生命予後改善効果がなくとも最後まで降圧治療を行うことが本人の救いとなることもあると思います。降圧薬でめまいやふらつき、頭重感などを訴える患者さんは比較的多いと感じます、降圧による脳循環不全の症状なのか、薬剤の副作用なのか判断は難しいです。血圧が140mmHgぐらいと降圧ができていないにも関わらずめまいを訴える患者さんもいますが、そういった場合は降圧薬を変更する必要があります。降圧薬を新規処方した場合や変更した場合、私は1か月後に血液検査で腎機能など副作用がないか確認しております。肝酵素が上昇してしまう患者さん、ARBで腎機能悪化する患者さんなどは時折います。ARBでの腎機能悪化は一時的なイニシャルドロップの可能性もあり、より慎重に経過を見るか腎動脈狭窄を精査するかになると思いますが、腎動脈狭窄は一般にクリニックだとなかなか検査が難しいです。

サイアザイド系利尿剤を含む異なるクラスの降圧薬を3剤使用してもコントロール不良の場合治療抵抗性高血圧と言います。服薬アドヒアランスや二次性高血圧、過度な飲酒や喫煙、運動不足、食生活などの生活習慣の問題などがあります。睡眠時無呼吸症候群と高血圧の合併はよく見かけますが、睡眠時無呼吸症候群もCPAP治療がなかなか難しい人がいます。マスクの圧やひもが気になったり、寝ているうちに外してしまうなどです。どうしてもCPAP治療が難しければ歯科に依頼してマウスピース治療の適応を評価してもらうことも選択肢の1つです。喫煙をずっとしてるため血圧が下がらない人も時折みます。二次性高血圧では原発性アルドステロン症を比較的よく見ます。他院で高血圧と低K血症をずっと内服のみで治療されている方を何度か目にしたことがあります。一度は二次性を疑って検査が必須です。

参考文献

高血圧管理・治療ガイドライン2025.日本高血圧学会.

骨粗鬆症

骨は破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成を繰り返す(骨リモデリング)臓器であり、カルシウムやリンの貯蔵庫としての役割があります。さらにその中の骨髄には造血機能もあります。カルシウムやリンは慢性腎臓病の際にも計測しますし、汎血球減少やLDH高値であれば骨髄疾患を疑うように骨は内科とも関連が深いです。深いんですが、そこまで意識して診察するのことに私はまだ慣れていません。

通常は骨吸収と骨形成は同量に生じるため骨量はリモデリングにより変化はしません。これを骨吸収と骨形成のカップリングと言いますが、このカップリングが崩れると骨粗鬆症に至ります。特に女性は閉経後に骨粗鬆症になりやすいですが、これはエストロゲンの欠乏により骨吸収が増大するためです。女性は閉経後に高血圧なども増加するとされているため、閉経期の診療は結構難しいなと感じて毎日診察しています。大腿骨頸部で診断された骨粗鬆症の推定有病者数は約1070万人とされています。約10人に1人って相当多いと思います。若年では疾患頻度は低いと思われるので、外来でみる患者さんの中に相当数いるのでしょうか。きっと私は見逃しているのでしょうが、骨折の病歴がなければ頭に浮かんですらきません。

原発性骨粗鬆症の診断は脆弱骨折の有無と骨密度によって診断します。

  • 椎体骨折か大腿骨近位部骨折。
  • その他の脆弱骨折(肋骨、骨盤、上腕骨近位部、頭骨遠位端、下腿骨)+骨密度がYAM値の80%未満。
  • 骨密度がYAM値の70%以下あるいは-2.5SD以下

上記のいずれかで診断します。つまり臨床症状がなくても検査だけで診断できる例もあるということです。症状がない場合は検診やその他の疾患関連で検査したときに診断されることになると思います。YAMとは健常若年成人の平均値のことです。

骨粗鬆症を診断した場合に続発性骨粗鬆症をきたす疾患の検索が必要です。原発性副甲状腺機能亢進症、甲状腺中毒症、性腺機能低下症、クッシング症候群などの内分泌疾患、吸収不良症候群や胃切除既往などの栄養に関する病態、ステロイドなどの薬剤、骨形成不全症やマルファン症候群などの先天性疾患、不動性、関節リウマチ、糖尿病、慢性腎臓病、COPDなども検索が必要です。ACTH、コルチゾール、TSH、FT4、FSH、LH、遊離テストステロン、成長ホルモンなどの検査が必要です。血清カルシウムやリン濃度に異常がある際は副甲状腺ホルモンは必須の項目になります。血清リンは食後に細胞内に移動してしまうため、食後採血では低リン血症になっていることがあり解釈に注意が必要です。

ステロイドや糖尿病で生じる続発性骨粗鬆症は骨密度低下がみられない段階でも骨折リスクは増加しています。

ビタミンD欠乏はくる病や骨軟化症にも関係してきます。血液検査で25(OH)Dを測定し20ng/mL未満はビタミンD欠乏、30ng/mL未満はビタミンD不足と判断します。この骨粗鬆症以外で易骨折性や骨密度低下を示す疾患があります。骨軟化症や多発性骨髄腫、線維性骨異形成症、強直性脊椎炎などです。骨粗鬆症を診断したときはCaやP、intactPTHなどは必ず確認すること、典型的ではない経過をたどる場合は再確認することが重要です。疼痛があり線維筋痛症と診断されているような症例でも、一度これらの疾患は確認しても良いと思います。

以前若年者の骨粗鬆症の既往がある患者さんを入院でみたことがあるのですが、その際は病院の転院を繰り返しており、どこかで情報が抜け落ちていき二次性なのか、精査したのかなどの情報がないことがありました。診療情報提供書は前医の分もつけて紹介した方が手っ取り早くて確実ですね。前医の紹介状もつけてくれる先生もいて、大変助かります。私は訪問診療をやるようになってから紹介状をより一層注意して記載するようになりました。その前は、おそらく抜け落ちた情報を紹介先に送っていたと思います。

骨粗鬆症の治療の目的は脆弱骨折の予防です。治療評価は治療開始後の骨折発生の有無、骨量変化の推移、骨代謝マーカーの推移をみて総合的に判断することが重要です。これは治療によって骨量が増加しても骨折抑制効果との強い関連を指摘できなかったためです。椎体骨折には症状のある臨床骨折と症状のない形態骨折があるため、定期的に画像の評価も重要と考えます。X線は以前と比較すると分かりやすいですが、初めての1枚は私には結構自信がないです。CTであれば読影依頼で対応できますが、X線装置しかない施設での診療の場合は腕が試されます。なるべく設備が整った環境の方が安心ですね。

骨代謝マーカーは病態評価や薬剤選択、治療効果判定に用いますが診断には利用しません。診断時と治療開始後6カ月以内の測定で保険適応があります。骨代謝マーカーには吸収マーカーと形成マーカーがあり、それぞれ1種類ずつ測定します。施設で慣れている項目で良いと思いますが、腎機能低下の影響を受けるマーカーもあるため注意が必要です。腎機能の影響を受けない組み合わせの例はTRACP-5b(吸収マーカー)、BAP(形成マーカー)です。治療によって骨吸収マーカーが最初に変化し、その3か月程度あとから骨形成マーカーが変化するため治療開始後から3-6カ月後に再度マーカーを測定して判断します。

この骨代謝マーカーは日内変動があり、朝に高く、夜に低下します。ただし上記のTRACP-5b、BAPは日内変動が少ないです。しかし正確な評価のために毎回測定時間は同じにして評価する必要があります。外来では予約の関係で同一時刻って結構難しいです。施設毎にプロトコルを決めて別に予約枠などあれば良いのですが、医療資源も限られており可能な範囲で行うことが重要だと思います。

治療不応の場合はカルシウム不足や25(OH)D不足を考慮します。効果判定に骨代謝マーカーの測定が役立ちます。最小有意変化(MSC)を超える低下があれば治療効果ありと考えます。TRACP-5b(EIA法)のMSCは12.4%、BAP(CLEIA法)のMSCは9%です。6カ月以上継続している状態での治療効果は骨密度や骨折の有無で判断しますが、骨密度は加齢で減少していくため、維持できていれば治療効果はあると考えて良いと思います。

胃切除の既往がある場合は経口ビスホスホネート製剤ではなく静注製剤など別の投与経路を選択します。

治療経過中は活性型ビタミンD3製剤の使用で高Ca血症や高Ca尿症になるため長くとも3か月毎に評価し薬剤調整を行います。薬剤性の高Ca血症による意識障害は時折目にします。内服している患者さんは多いため頻度としては少ないのかも知れませんが、生じると重大なため普段から患者教育が大切ですね。ただ高齢者では脱水のリスクも高く、注意力も低下していると考えられるため内服の適応をしっかり考慮する必要があります。

ビスホスホネートは長期使用で非定型大腿骨骨折や顎骨壊死などの合併症の可能性があります。そのため、脆弱骨折などを来さなければ、経口では5年、静注では3年継続し休薬を考慮できます。その場合は2年程度で骨密度を測定し5%以上の低下があれば治療再開を検討できますが、日本人のデータではないため注意が必要とされています。アレンドロン酸を10年以上の継続した研究もあり、長期での治療も有用なことがあるため、必要に応じて治療延長も有用と考えられます。私は5年程度継続して脆弱骨折がなければ一旦休薬をしています。ビスホスホネートを入院で開始する際に、病棟まで歯科医が往診している施設もあるようです。私は歯関連は全て歯科医に丸投げしています。

参考文献

Yoshimura N,et al:J Bone Miner Metab.2009;27(5):620-628.

Cummings SR,et al:Am J Med.2002:112(4):281-289.

骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編.2015.

胃食道逆流症(GERD)

GERDは食道粘膜障害がある逆流性食道炎と症状のみの非びらん性逆流症(NERD)に分類されます。GERDの有病率は約10%程度です。凄まじい数だと思いますが、確かに胃薬飲んでいる人多いですね。

GERDによる慢性咳嗽や喉頭炎は酸以外の咽頭逆流が関与している可能性があるとされています。慢性咳嗽でPPIやPCABを処方しても改善がない理由はこれなんですかね。。PCABと消化管運動機能改善薬をセットでだしても良いかもしれませんね。喘息では好酸球が高い患者さんがいますが、治療抵抗性の場合は好酸球性食道炎も考えて良いかもしれません。

私は喘息とGERDをもっており、吸入薬と胃薬を飲んでなんとか過ごしています。吸入薬であまり効果がない時に胃薬飲むと、気持ちの問題はさておき1時間ぐらいで咳嗽や息苦しさが良くなることは確かにあります。

逆流性食道炎と比較してNERDは女性に多く低体重の人に多いとされています。

非心臓性胸痛の原因となるため狭心症を疑う症状ではGERDも鑑別に挙げる必要があります。

GERD診断のためのPPIテストは、PPIを倍量で処方し効果を確認します。日本では倍量は保険適応がありませんが、PCABが使用できるのでPCABで良いと思います(NERDへの有効性は不明です)。

PCABで改善しない場合はモサプリドや六君子湯、半夏瀉心湯、アコチアミド、バクロフェンとの併用が選択肢としてありますが、保険適応には注意が必要です。

参考文献

胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021.日本消化器病学会.

鉄欠乏性貧血

鉄欠乏性貧血は、文字通り体内の鉄が不足することによって生じる貧血です。患者数はかなり多いです。何かの理由で血液検査をとり、貧血があり確認すると「昔から言われているけど特に治療をしていない」という患者さんが多いです。

鉄欠乏性貧血の症状は動悸、息切れ、疲れやすさ、異食症、下肢の不快感(むずむず脚症候群)、不眠がなどが生じます。また、組織の鉄欠乏による症状として脱毛や鉄の変形、舌のしみり感、喉頭違和感、嚥下困難があります。乳幼児期では発育発達障害がみられることもあるようです。喉頭違和感を訴える患者さんは外来で非常に多く見かけます。私の場合は喘息に対して吸入薬を処方し、それが原因であることが多いのですが、吸入薬を変えても改善せず、やめても改善しないため耳鼻科を受診してもらいますが、やはり何もないということが今まで結構多かったです。そういった患者さんには鉄をチェックした方が良いのかーと書きながら考えています。

鉄欠乏の原因は主に性器や消化管からの出血、妊娠、筋肉量の増加、鉄の摂取不足、ピロリ菌感染、PPIの長期内服、慢性炎症などがあります。若い女性に多い疾患で、どこまで精査するかは判断に迷うことが多いです。婦人科を受診してくださいとお願いしても受診しないことが多いので、私は自身で腹部CTをとることもよくあります(外勤先では腹部MRIを撮影します)。以外と子宮筋腫などの疾患が見つかることが多いです。ベストは婦人科を受診しエコーでの検査が良いのかもしれませんが、現実はあまりうまくいきません。

診断は貧血があり、TIBCが360μg/dL以上、血清フェリチン12ng/mL未満を満たす場合です。貧血がないけどフェリチン12ng/mL未満は潜在性鉄欠乏であり、鉄欠乏性貧血に進行します。この鉄欠乏の状態でも症状をきたすことはあるため、良くわからない症状の人はフェリチンを調べることを良くするのですが、その場合は低下していないことが多く、低下していて治療しても症状の改善を認めないこともあります。非特異的な症状の診察はやはり難しいです、

心疾患や腎疾患がある場合はフェリチンは高めにでることがあるとされています。そのため、CKDではフェリチン50ng/mL未満は鉄補充したほうが良く、50-100gn/mLの場合はTSATが20%あるか確認し、なければやはり鉄補充した方が良いとされています。CKDの人はエリスロポエチンの低下ばかりに目を向けず鉄とセットに考えることが重要です。

治療は基本的には経口鉄剤です。経口鉄剤を使用しない状況があり、潰瘍性大腸炎やクローン病(鉄剤が腸管に悪影響)、ウイルス性肝炎・肝硬変(過剰鉄が幹細胞障害をきたす)がその例です。

私は以前からフェロミア®50mgで開始し悪心や便秘、下痢などの副作用で継続できない場合はインクレミン®シロップを2ml/日で開始し10ml/日ぐらいまで時間をかけて増量する治療を行っておりましたが、最近はリオナ®を用いることも増えました。

たまにですが鉄剤で蕁麻疹をきたす人がいます。そういった人にインクレミンを開始して経過をみたことがあるのですが、最初は問題ないのですがしばらくすると蕁麻疹が出現して中止となりました。1-2mL/日でも継続は難しかったです。そういった患者さんには栄養指導などの食生活の改善でみるしかないのかなと思います。

内服しているにも関わらず改善しない場合は内服薬の飲み合わせや貧血の原因を再検索する必要があります(ピロリ菌も経口鉄剤不応性の原因となります)。

鉄欠乏性貧血はかなりありふれた疾患で日常的に目にします。なるべく情報をアップデートして、うまく治療を行っていきたいです。

参考文献

World Health Organization.WHO guideline on use of ferritin concentrations to assess iron status in individuals and populations.2020.

鉄欠乏性貧血の診療指針.日本鉄バイオサイエンス学会.

肥満症

肥満症はBMIが25以上で健康障害や内臓脂肪の蓄積がある状態です。BMIが35以上であれば高度肥満症と言います。

WHOの診断基準ではBMI30以上を肥満としていますが、日本では25以上を肥満としています。つまり私は日本では肥満ですが海外では肥満ではないということになります。。なりません。。。

この肥満症と肥満は明確に区別されており、肥満はBMI25以上である状態であり、それに健康障害を合併あるいは合併しそうな状態を肥満症という疾患としています。お相撲さんは肥満だけど健康障害がなければ肥満症ではないということです。

似たような概念にメタボリックシンドロームがあります。こちらはBMIではなくウエスト周囲長で内臓脂肪面積を推定し、脂質異常症、血圧高値、高血糖があるかどうかで診断します。BMI25未満でも内臓脂肪蓄積例が多いとされており、肥満症の診断基準ではとらえきれない例をスクリーニングできます。特に高齢者では身長短縮や骨格筋減少などが理由でBMIが正常でも内臓脂肪の蓄積があるサルコペニア肥満が存在するため注意が必要です。

肥満は原発性肥満と二次性肥満があります。二次性肥満の場合は原疾患の治療が優先されます。内分泌疾患、遺伝性、視床下部疾患、薬剤性が主に考慮されますが、疾患頻度が不明ですが、内分泌疾患と薬剤が多いのかなと勝手に考えています。最低限ここは調べた方が良いと思います。肥満を来す薬剤は結構多く、ステロイドや抗うつ薬、非定型抗精神病薬などは知っていましたが、神経障害性疼痛治療薬(プレガバリンやミロガバリン)も原因となるようです。これは知りませんでした。

蛋白質接種割合が少ないことや早食い、低カロリー甘味料などは肥満のリスクとなります。それ以外もリスク因子は多くあるので1つ1つ確認するのは臨床では難しいと思います。施設毎に質問票を作るなどして外来時間がかからないように工夫が必要かなと思います。低カロリーと書いてある商品を見るとついつい買いたくなりますが、一旦立ち止まってよく考える必要がありそうです。

BMIが高いことは高血圧や高TG血症、低HDL血症、糖尿病、一部の癌のリスクとなります。肥満の場合はBNPは低値を示すため、心不全評価には注意が必要です。脂肪組織でBNPの分解促進と産生低下があるためです。BNP低値でも肥満があれば心不全を疑って超音波を行うことを考えた方が良いかもしれません。

高齢者や特定の状況(冠動脈疾患の二次予防、末期腎不全など)ではBMI高値の方が死亡リスクが減少するというobesity paradoxということが起こり得ます。ただし、BMI高値のみではなく内臓脂肪量に目を向けると、高齢者でも内臓脂肪が多いと死亡リスクが上昇するとされております。状況によって減量するかどうか注意しながら決定するしかないと思います。高齢者ではやせ型の人の方が色々な疾患で予後が悪い印象が強く、特にサルコペニア肥満の人に減量を勧めるのはどうしても抵抗があります。減量を勧めるのは怖いので食事制限ではなく運動を勧めて筋力を落とさないようにすることが大切だと思います。介護保険の申請を行いデイサービスなどの利用も有効だと思います。

体重が重いと足が痛くなるというのはイメージがしやすいと思いますが、中年期の肥満は高齢期のフレイルのリスクとなる可能性があります。体重いと動きたくない気持ちはすごくわかります。

シフトワーカーは内臓脂肪型肥満になりやすいとされています。確かに、高血圧などの生活習慣病があり肥満の患者さんで、シフト制だから夜の食事が不規則などの訴えを聞くことが多い気がします。夜の仕事は大変な気持ちはすごく分かります。

体脂肪の評価方法は色々ありますが、簡便であるためBMIが一番評価しやすいと思います。あとはCTで内臓脂肪面積を測定できますが、CT検査装置に測定のプログラムがあるかどうか放射線技師に確認すればいいと思います。あるようなら臍レベルの断面で測定できるので、技師さん確認すると教えてくれると思います。

小児の場合は身長が成長していくため成人で使用するBMIではなく標準体重と実測体重で求める肥満度を用いて行います。成長曲線を考えながら行うため慎重に行う必要がありそうです。私はやったことありません。

精神疾患がある場合は食事療法の順守が難しいこともあると考えられます。薬剤を使用する際は慎重に行う必要があります。肥満外科手術の場合も、術前に精神疾患のコントロールを行ったうえで手術するよう注意が必要です。精神疾患の患者さんで肥満の患者さんは多い印象があります。肥満と精神疾患の関連は言われていますが、薬物治療を行うときは単独で治療する勇気は私にはないです。精神科の先生に紹介状で許可をいただき、連携を行いながら治療をします。

肥満症の治療の目的は健康障害の予防と改善です。体重を3%落とすだけで血圧や脂質、血糖、肝酵素などの改善を認められるため、まずは3%を目標として経過をみます。3%は楽と思っていましたが、肥満な私にとっても大変です。よく痩せている人は、太っている人の数Kgの減量は簡単と思っておりますが、難しいんです。リバウンドするんです。。。

肥満症の薬物治療は保険適応に注意が必要ですが、GLP-1受容体作動薬やマジンドールSGLT2阻害薬などがあります。美容目的で自由診療で使用されており賛否両論がありますが、肥満症であれば使用した方が良いのかなと思います。痩せている人がさらに痩せる目的で使用されていることが問題であり、肥満症に関しては保険適応の拡大や実施可能施設の要件緩和などして欲しいなと日々思っています。

減量が急速に行われたときは胆石が発生する可能性があるためスタチンや低エネルギー高脂肪食(ウルソデオキシコール酸併用)での予防が有効な可能性があります。私は以前ダイエットで1カ月で6.7Kgぐらい落ちたことがあるのですが、胆石があるかどうか日々悶々としています。

参考文献

肥満症診療ガイドライン2022.日本肥満学会.ライフサイエンス社.

アトピー咳嗽

アトピー咳嗽は咳感受性が亢進した好酸球性気道炎症です。中枢気道に好酸球性の炎症がありますが、FeNOは上昇しません。咳喘息と同様に起床時や就寝時に多く、咽喉頭掻痒感を伴うこともあります。エアコンやたばこの煙、会話、運動などで誘発されます。気道平滑筋の収縮で生じるものではありません。気道過敏性がなく気管支拡張薬やLTRAが無効です。2週間程度短時間作用型気管支拡張薬を定期吸入(メプチン®などを1日3-4回、1回2吸入)し効果があればアトピー咳嗽ではなく咳喘息を疑います。

吸入ステロイド薬やヒスタミンH1受容体拮抗薬が有効とされています。

診断は喘息や呼吸困難を伴わない乾性咳嗽が3週間以上続く、気管支拡張薬が無効、アトピー訴因あり、ヒスタミンH1受容体拮抗薬かステロイド薬で咳嗽が消失することを全て満たす必要があります。長期治療は不要とされています。

このアトピー咳嗽は、正直診療で確定できることは私は少ないです。喉がいがいがして咳嗽がでるということを訴える患者さんはかなり多いですが、そういった患者さんにヒスタミンH1拮抗薬や吸入ステロイド、気管支拡張薬を全て併用して処方しても改善ないことが結構あります。GERDを疑ってPCABを併用しても咳嗽が持続する患者さんも多いです。私はアトピー咳嗽を疑って治療し効果があれば儲けものぐらいの気持ちで診療していますが、改善ないことが多いのでその他の疾患を考えながら日々外来を行っています。

参考文献

最新呼吸器内科・外科学.メディカルレビュー社.2019.

卒後15年目の総合内科医の診断術.石井義洋.中外医学社.2019.

Kita T et al.Allergol Int 2010;59:185-192.

過敏性肺炎

過敏性肺炎は抗原の反復吸入により胞隔や細気管支に炎症を来すアレルギー疾患です。Ⅲ型アレルギーとⅣ型アレルギーが関与しています。過敏性肺炎と過敏性肺臓炎のどちらを使うかという議論がありますが、科によって過敏性肺炎という科、過敏性肺臓炎という科があるようです。呼吸器内科が診ることが多いためか過敏性肺炎という文字をみることが多い気がします。私は過敏性肺炎として覚えたので、学術的な議論的な正確性より使いやすいから使っております。

以前は急性過敏性肺炎、慢性過敏性肺炎と分類していましたが、現在は非繊維性過敏性肺炎、繊維性過敏性肺炎の分類が採用されています。これは急性、慢性よりも線維化の有無の方が疾患進行や予後に影響がある報告を反映してのものです。現場では今でも急性、慢性の言葉は使っていますが、今後は少なくなっていくのかも知れません。

この過敏性肺炎は原因によって鳥関連過敏性肺炎、夏型過敏性肺炎、住居関連過敏性肺炎、農夫肺、塗装工肺などと名前が変わります。原因は300種類以上とされています。原因が明らかであればいいですが、明らかにならない場合も多いのでその際は単に過敏性肺炎と言うに留まります。鳥関連となっている通り、鳥そのもののみではなく羽毛布団やダウンジャケットなどの羽毛製品、鶏糞肥料なども原因となります。同一環境にいないのに家族発症する症例もあり、遺伝的な要因の関与もありそうです。湿った畳などでも住居関連過敏性肺炎をきたしたりします。私の自宅にも畳がありますが、近々フローリングにリフォーム予定です。急性夏型過敏性肺炎は季節的には6月頃より発症し11月頃に改善する咳嗽で、約8割に発熱を伴いますがトリコスポロンアサヒ以外の真菌が原因の場合は実臨床では抗体が測定できないため原因の診断は困難です。季節性の咳嗽は喘息だけでなく過敏性肺炎も鑑別に入れて診療する必要がありそうです。住居関連過敏性肺炎は環境中の真菌が原因であることが多いですが、こちらも実臨床では測定できる抗体はありません。

過敏性肺炎の症状は呼吸困難や咳嗽、発熱、胸部圧迫感、喘鳴などがみられます。非繊維性過敏性肺炎は急性~亜急性の経過であり、抗原暴露後4時間程度してから症状が発症し、抗原回避で2日程度で症状の改善を認めますが、改善に数週間を要することもあります。症状だけでは他の呼吸器疾患と区別するのは難しそうで、症状が重いあるいは長引いているから胸部CTを撮影して本疾患を疑うということが多いです。以前外来で、友達の家に行ったら息苦しくなったという人がいて、喘息かなと思って胸部CTを撮影したら過敏性肺炎を疑う所見でした。自宅で発症した訳ではないのでその人の家に行かなければ良いだけであったので経過観察のみで改善しました。人によっては加湿器を付けたら咳嗽がでてきて、止めたら良くなってきたと自己申告してくれる場合があり、非常に助かります。

過敏性肺炎の原因抗原の特定は診断の確信度と抗原回避による予後改善に必要ですが、特定困難なことも多く、50%程度特定できなかったという報告もあります。鳥関連やトリコスポロン・アサヒなど血液検査である程度予測できるようなら良いですが、それ以外では特定はかなり難しいです。ガイドラインに記載されている質問票を患者さんに渡して網羅的に行わないと難しいです。1から全て診察室で問診で確認していくことは現実的ではないと思います。

現在原因抗原の特定に関して保険適応のあるものはトリコスポロン・アサヒ、ハト、セキセイインコの鳥抗原のみです。これはセキセイインコIgG抗体です。セキセイインコIgE抗体ではありません。IgE抗体は主にⅠ型アレルギーに関与しているもので、過敏性肺炎はⅢ型が関与しています。この鳥抗原はその他の鳥類と交差反応性があるため、ハトやセキセイインコ以外の鳥が原因となっている鳥関連過敏性肺炎でも陽性となります。ただし抗体が陽性というのは感作されていることを示しているだけで、原因抗原となっているかの断定まではできません。ここが難しいところで、検査陽性=鳥関連過敏性肺炎と診断できないので苦労します。

好熱性放線菌は農夫肺の原因となったり、Candida albicansなども過敏性肺炎の原因となったりしますが、検査法として確立されていないため、実臨床では検査は難しいです。病態にはⅣ型アレルギー(感作リンパ球が関与したもの)も関係しているため、リンパ球刺激試験の有用性も期待されていますが、こちらも抗原が市販されておらず実臨床では使用できません。いつかは全て外来で検査が行える日が来るのでしょうか。検査が増えると医師が考える事も増えるので年々大変になっていきます。。。

血液検査ではKL-6やSP-Dが有用とされています。繊維性過敏性肺炎ではSP-Dが高いほど予後が悪いとの報告もあります。季節性にでる咳嗽は喘息とイメージがありますが、過敏性肺炎も季節性にでることがあり、KL-6の季節変動性があるようであれば過敏性肺炎の可能性があります。冬に上昇する場合は羽毛布団などの鳥関連過敏性肺炎の可能性があり、夏に上昇するなら夏型過敏性肺炎の可能性があります。KL-6は非小細胞肺癌や乳癌、膵癌、卵巣癌でも上昇します。

画像所見では通常の5mmスライスのCTでは血管を粒状影と見間違えたりすることがあるため1.25mm以下のスライスにしてみることが推奨されています。胸部CTで小葉中心性の粒状影や呼気CTのair trappingを認めた場合は細気管支病変を疑います。すりガラス影やモザイクパターンは肺野病変を疑いますが、モザイクパターンやair trappingは喫煙者や健常人でも見られることがあります。線維化性過敏性肺炎では両側肺尖部にコンソリデーションを認めることがありますが、これは炎症ではなく線維化を示しています。この両側肺尖部の陰影は通常の外来でも多く目にします。過敏性肺炎なのか、陳旧性の炎症なのか、区別するためには下葉の情報も考えながら行います。

CT所見は非繊維性過敏性肺炎と繊維性過敏性肺炎で異なります。それぞれにTypicalな所見があります。非繊維性過敏性肺炎では両肺びまん性の小葉中心性右粒状影やすりガラス影を認め、繊維性過敏性肺炎では両肺びまん性の網状影や牽引性気管支拡張、すりガラス影、小葉単位の低吸収域などを認めます。最近は間質性肺炎においては、内科医、病理医、放射線科医との意見をすり合わせて診断を深めていくことが重要と考えられており、間質性肺炎を疑ったら読影依頼を提出する必要があります。院内に全ての科がそろっている場合は必要ないと思いますが、科がそろうことは通常の病院ではないと思います。

過敏性肺炎の診断はCT所見、抗原暴露歴や血清IgG抗体の有無、気管支鏡結果(BALや組織生検)を組み合わせて判断します。典型的な画像所見で抗原暴露歴が確認でき、BALでリンパ球増加、病理所見で典型的な像を確認できれば確実例として診断できます。画像も典型的でなく、抗原暴露歴も確認できずBALでも病理組織検査も合致しない場合でも完全に過敏性肺炎を除外できる訳ではないとされています。私は気管支鏡が行える環境にないため、画像と血液検査、病歴で判断し外来でフォローしています。

治療は抗原回避、薬物治療です。

原因となる抗原を回避し、症状や肺活量、KL-6、WBC、画像所見、拡散能などを見て総合的に治療効果は判断します。抗原回避してもすぐは良くならず、2週間程度で改善する場合もあれば1カ月以上かかることもあります。抗原回避は入院やホテルへの宿泊が必要ですが、金銭面や家庭を考えると入院一択だと思います。最近はビジネスホテルも相当高いです。

薬物治療は明確にエビデンスがある薬剤は現在ありませんが、ステロイドや抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテタニブ)などが用いられます。非繊維性過敏性肺炎に対しては抗原回避が困難あるいは呼吸不全がある場合にプレドニゾロンを使用します。呼吸不全が高度な場合はステロイドパルス療法を行うこともあります。状態が安定したら漸減していき終了を目指します。繊維性過敏性肺炎に対してはプレドニゾロンを使用し、症状が進行する場合や症状が抑えているがステロイド長期使用が問題になる場合はアザチオプリンを併用することもありますが、保険適応はありません。線維化が進行する場合はニンテタニブに切り替えステロイドは終了します。

過敏性肺炎の合併症には肺気腫、肺癌、気胸や縦隔気腫、肺高血圧、急性増悪などがあります。肺気腫は非喫煙者にも生じ、air trappingが関与している可能性があるとされています。間質性肺炎と肺気腫が合併している状態は気腫合併肺線維症と言いますが、この病名には賛否があります。肺癌は扁平上皮癌が多いとされています。気胸や縦隔気腫はステロイド投与との関連の可能性もあり、ステロイド投与は難治化の原因となりうるため可能であれば減量が必要です。DLco低値は急性増悪のリスクとなるため、低値な症例は外来でのフォローや画像撮影の頻度を短くしても良いかもしれません。
ちなみに、私は気腫合併肺線維症は喫煙者で生じると思っており、過敏性肺炎でも生じる可能性があると知って目から鱗でした。

参考文献

Raghu G,et al.Am J Respir Crit Care Med 2020;202:e36-e69.

Okamoto T,et al.Respiration 2013;85:384-390.

過敏性肺炎診療指針2022.日本呼吸器学会.

Ejima M,et al.Respir Ibvestig.

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー病は大脳皮質や海馬に老人斑や神経原線維変化が健常な高齢者より多く生じることにより脳が萎縮することによって認知症をきたす疾患です。
進行性の疾患であり、アルツハイマー型認知症を疑っているのに認知症が進行しない場合は他疾患の可能性を考慮する必要があります。1年前と比較して変わりないと家族が言ったら正常な加齢性変化も考えます。
記憶障害から始まり、重度にならないと運動や歩行障害はきたさないため元気に歩いて外来にきます。レビー小体型認知症はパーキンソニズムをきたしたり、脳血管性認知症は障害部位によって麻痺などあるから歩行はスムーズでないですが、アルツハイマー型認知症は結構スムーズであるから見ただけだと認知症とは思えないです。また、病識に乏しく診察室で会話していると結構会話が成り立ちます。だから家族の訴えがあるか、意識して問診しないと見逃したりしやすいです。私は80歳以上の高齢者がきたら、認知機能低下は少なくともあるだろうなと考えながらお話しています。
海馬の萎縮から始まり進行すると頭頂葉や前頭葉、後頭葉も萎縮していき、やがて無動、無言となり寝たきりの状態を得て死に至る経過をたどります。その間に誤嚥性肺炎や胆管炎などなにかしらの感染症を来して入院することも多く、認知症のみで自宅で穏やかに亡くなるということは、私はあまり経験しません。
記憶はエピソード記憶(出来事;先月娘と食事をした)と意味記憶(普遍的心理;千葉県は関東だ)からなる陳述記憶と、縄跳びの飛び方などの非陳述記憶からなります。アルツハイマー型認知症はエピソード記憶→意味記憶→非陳述記憶の順で障害が進行していきます。物忘れに加えてその他の認知機能障害の症状があることが診断に重要です。

認知症の診断は問診で認知症を疑う症状を確認すること、認知機能検査で客観的な点数の確認をすること、社会生活に支障があること、他疾患の除外をすることで行います。認知機能低下が急性ならせん妄を疑い原疾患や薬剤を確認が必要です。臨床表現型のみでアルツハイマー病を診断すると約30%程度に偽陰性や擬陽性が混在するためバイオマーカーでの診断が必須にななりました。血液バイオマーカーのp-tau217は診断精度が高いため今後応用が期待されます。ただ比較的若い軽度認知障害であれば新薬である抗Aβの適応がありPETや脳脊髄液検査などの検査が必要かもしれませんが、高齢者であれば抗Aβ薬のための通院が難しかったりするのでバイオマーカー検査はそこまで必須なのかなと思いながら診察をしています。私は80歳や85歳ぐらいの患者さんには臨床診断でコリナージック薬を処方しています。
問診では記憶障害(物忘れ)、自発性の低下や意欲低下、日時や季節が分かるかどうか、怒りっぽくなったかどうかなどを確認します。今までできてたことができなくなることが認知症の特徴であり、すぐに手伝いを求めるようになったり、質問してもすぐ分からないと言ったりして考えこまずに返事がでてきます。その時は笑顔なことが多い気がします。
認知機能検査は改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)などを使用します。
専門医療機関に紹介した方がよい事例は川畑先生の著書「かかりつけ医・非専門医のための認知症診療メソッド 改訂2版;南山堂」によると①認知症の有無を判断できないあるいは診断に自信がない時、②アルツハイマー型認知症あるいは血管性認知症として非典型例、③認知症はあるが病態分類できない時、④徘徊や暴力行為などのBPSDコントロール困難例、⑤セカンドオピニオン、であると述べられています。こういった目安を記載して頂けるのはすごくありがたいです。ただ紹介してもHDS-Rの結果認知症でドネペジル開始しました、あとは継続お願いしますと返信が返ってくるだけのことも多いです。これは紹介する病院によって対応はまちまちと思いますが、丁寧に返信をくれる先生もいて、そういった場合はとても勉強になります。
BPSDには不眠、幻覚、妄想、うつ、不安、興奮、暴力、不潔行為、徘徊、異食、過食、依存、焦燥などがあります、うつ以外は結構周囲が困ります(家族も私も)。このBPSDは認知症の程度と相関なく出現します。また最近はMCIの重要度が高くなってきており、BPSDではなくNPSが使用(Dがdementiaのため)されるようになってきている。このBPSD(NPS)は認知症の程度と相関しないというのは結構目から鱗でした。認知機能検査で少し点数低いけどあまり記憶障害のエピソードは目立たない、でも不安や焦燥感が強い患者さんにも認知症疑いでドネペジルなど始めたりしても良いのかと感動を覚えました。
物を片付けても片付けた事自体を忘れてしまうため、その物を他人にとられたという妄想(物盗られ妄想)をきたすことがあります。

頭部CTや頭部MRIでは大脳皮質の萎縮を反映して脳室の拡大や脳溝の拡大を認め、これが認知機能低下につながります。海馬の萎縮は記銘力の低下につながるようです。

治療はドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンなど(コリナージック薬)を用います。最近は抗Aβ薬としてレカネマブ(レケンビ®)とドナネマブ(ケサンラ®)が使用されるようになってきています。レケンビ®は隔週、ケサンラ®は月1回でどちらも点滴注射で投与します。この抗Aβ薬の出現で軽度認知障害(MCI)の段階で薬物療法が可能になったことはかなりの進歩だと思いますが、通院の負担や検査の負担があり恩恵を受けれる人数はまだまだ少ないと思います。今後はどんな薬がでてきくるのでしょうか。

参考文献

病気が見えるvol7 脳・神経;MEDIC MEDIA

川畑信也;かかりつけ医・非専門医のための認知症診療メソッド改訂2版;南山堂

Medical Practice vol.42 no.5 2025.

Basedow病

BasedowはTSH受容体に対する自己抗体がTSH受容体を刺激して甲状腺ホルモンが過剰に産生されてしまう疾患です。女性に多く20-30代の発症が多いとされています。この疾患では甲状腺ホルモンの上昇と両葉の腫大を認めますが、エコ―で腫大ではなく結節を認めた場合はPlummer病の考慮が必要です。臨床的な症状として動悸や倦怠感、体重減少、食欲亢進、発汗過多、手指振戦、収縮期血圧上昇などをきたします。Basedow病で息切れをきたすこともあり、心房細動を合併することもあります。私も外来でBasedow病の人の治療を行っていますが、初診時は症状で疑って検査して診断する、というよりは咳嗽を主訴に受診し胸部CTを撮影したら偶発的に甲状腺の腫大や結節があり検査したらBasedow病であったということが多い気がします。倦怠感や体重減少、血圧高値で精査しても甲状腺ホルモンの異常がないことが圧倒的に多いです。検診で甲状線腫大があれば内分泌科などへ直接紹介されると思うので、一般外来では頻度は少ないと思います。有病率は人口1000人あたり1-6人、年間発症率は約10万人あたり20-30人程度みたいです。こう見ると結構多いのかなと思いました。私の場合は数か月間外来やって新規で1,2人診断するぐらいの割合という印象があり、結構見逃してしまっているのかなと思いましたが、私の勤務している地域の人口を調べてみたら20万人ぐらいでした。すごい見逃しているという訳ではなさそうで安心しました。

診断は甲状腺中毒症状、びまん性甲状腺腫大、甲状腺眼症いずれかと、FT3、FT4の上昇、TSHの低下、抗TSH受容体抗体(TRAb)陽性、甲状腺刺激抗体(TSAb)陽性、甲状腺摂取検査で特徴的な所見の全てが合致すれば診断できます。3つ合致なら準確実例とします(甲状腺疾患診断ガイドライン2024,日本甲状腺学会ホームページ)。肝逸脱酵素は甲状腺中毒症でも甲状腺機能低下でも上昇しますので鑑別にはあまり役に立ちませんが、よく分からない肝逸脱酵素の上昇があれば甲状腺機能異常を考えても良いかもしれません。甲状腺中毒症ではコレステロールは低下し、甲状腺機能低下で上昇します。LDLコレステロールが高値であれば甲状腺も調べますが、低値の時は調べてなかったので注意しないとなと思いました。スタチン抵抗性の時は特に注意が必要です。

TRHは測定困難であるためTSHを測定します。私はこれを知らずにTRHの測定項目を電子カルテでずっと探していたことがあります。

FT4が高値でもTSHが正常~軽度上昇の時はTSH不適切分泌症候群を考えます。

Basedow病でも抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)や抗サイログロブリン抗体(TgAb)も陽性になることがあります。

T3toxicosisは初期や軽症例ではFT4が正常でFT3のみ高値となることです。そのため甲状腺中毒症のときはFT3も調べます。小児Basedowは注意欠如多動症と間違われることがあり注意が必要です。

甲状腺摂取検査は実施可能な施設でない限り、一般外来では行う機会はないと思われます。そのため症状と血液検査で診断し治療を開始するという流れが一般的だと思います。

甲状腺眼症はBasedow病だけでなく、頻度は低いが橋本病でも認められます。視神経が圧迫され失明する可能性もあるため注意が必要です。MRIで眼筋の肥厚をチェックするとともに眼科へ評価を依頼が必要です。眼症の治療は甲状腺機能の正常化、禁煙が基本で、軽症例ではステロイド局所注射や点眼薬、重症例ではステロイドパルスを行うようです。こちらはあまり内科で目にすることはありません。甲状腺機能が正常でも甲状腺眼症がある場合はeuthyroid Graves病を疑い眼の状態評価のため眼科へ依頼が必要で、これは愛煙家に多いようです。こちらも眼科の先生に任せるしかなさそうです。

Basedow病の治療は薬物、放射性ヨウ素(アイソトープ治療)、手術があります。

Basedow病は放置されれば心不全や甲状腺クリーゼに至ります(甲状腺機能低下症は粘液水腫性昏睡)。そのため治療が必要です。

薬物はチアマゾール(MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)、ヨウ化カリウム(KI)のいずれかですが、基本はMMIを用います。MMIは催奇形性があるため、妊娠4週~16週はPTUに変更する必要があります。MMIは用量依存的に薬疹と無顆粒球症をきたすことがあり。そのため高用量が必要なときはMMI30mg/日(MAX量)は避けて、MMI15mg/日+KI1錠の併用が良いとされています。肝障害も重症となることがあり、治療開始2か月ぐらいは2週間毎の肝酵素と肝機能のフォローと4週間毎の甲状腺ホルモンのフォローが必要です。MPO-ANCA関連血管炎をきたすこともあり神経症状にも気を付けながらフォローする必要があります。私は以前MMIを15mg/日で治療を開始し、TSHがまだ正常範囲内に入らないため30mg/日に一気に上げてしまったことがあります。その後フォローしたらTSHが著明に上昇してしまい、甲状腺機能低下の症状がでてしまいました。その際は5mg/日に変更し一旦安定してから再度増量としました。

妊娠時の場合はFT4ではなくTSHを指標として治療薬を調整します。これは妊娠時の検査には信頼性の問題があるためです。妊婦さんの場合は専門の科に紹介してしまった方が良いかなと考えてます。
2年程度の抗甲状腺薬の内服でも完治ができなければアイソトープ治療や手術を考えます。TRAbやTSAbが高値の場合は再燃リスクが高いとされています。

アイソトープ治療は、甲状腺はヨウ素代謝の場であるため放射性ヨウ素を内服し取り込ませ、放出されるβ線で細胞を破壊する治療法です。こちらも専門施設に任せるしかなさそうです。アイソトープ治療は妊娠中や妊娠可能性のある女性には禁忌で、治療後6カ月は避妊が必要です。治療後に甲状腺機能低下症に移行することがあり、この低下は一時的なこともあれば永続的なこともあります。永続性の人を外来で見ていますが、治療の副作用はどんな病気、治療でも避けられないですね。

参考文献
かかりつけ医のための甲状腺疾患治療ガイド,日本甲状腺協会;診断と治療社.
ハリソン内科学第5版
甲状腺疾患診療マニュアル改訂第3版.西川光重,他.

肺炎

肺炎は肺実質の急性の感染性の炎症とされています。
原因菌の観点から細菌性と非定型肺炎に大別され、発症した場所の観点からは市中肺炎(CAP)、院内肺炎(HAP)、医療・介護関連肺炎(NHCAP)に大別されます。
また、画像の観点からは大葉性肺炎と気管支肺炎に分類されます。このように様々な視点からの分類がありそれぞれ一個ずつ確認していくことが大切ですが、実際は細菌性肺炎か非定型肺炎か考えるのが一番大切かなと思います。画像の分類の大葉性肺炎は肺炎球菌、クレブシエラ、レジオネラで見られ、炎症によって滲出物が肺胞に貯留しKohn孔を通って拡大するため、気管支が支配している区域とは関係なく非区域性に拡大していきます。気管支肺炎はその気管支が支配している区域に沿って広がります。ただ気管支肺炎の画像所見を示していても肺炎球菌であることもありますし、起因菌の検査はあくまで抗原検査などで行うため学術的には大事なのでしょうがあまり臨床では役にたたない気がします(ただ検査キットがないなど抗原検査ができない状況であれば役に立つと思います)。


細菌性肺炎と非定型肺炎(マイコプラズマ)の鑑別は①60歳未満、②基礎疾患がないか軽い、③頑固な咳、④胸部聴診所見が乏しい、⑤迅速検査陰性、⑥WBC 10000/μL未満、の項目の合致数で行いますが、これは4項目合致しても鑑別は難しく、マイコプラズマと細菌が合併することもあるためあくまで参考程度です。レジオネラの推定にはこの基準は使えません。外来では判断が難しく、細菌性、非定型療法をカバーする抗生剤をだすこともかなり多いです。

CAPは肺炎球菌やインフルエンザ菌、マイコプラズマが多く、慢性肺疾患がある人はモラキセラも考慮が必要とされています。ウイルスはエンテロウイルス、ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルスなどがみられます。口腔内連鎖球菌やプレボテラ賊、フゾバクテリウム属などの嫌気性菌も多い(Nemoto K,et al.J Infect Chemother 2022:28:1402-1409)とされており、なんでもありです。これらの原因のなかで検査キットがある抗原検査をすべて行うことは非現実的で、一般外来では喀痰培養の結果を待っている間にほとんどが治癒してしまいます。もし改善なかったときのことを考えると喀痰培養はやっても良いのかも知れませんが、良好な喀痰の採取は難しく、口腔内の常在菌が検出されるだけで終わることも多く、どこまでやるかは悩ましいと思います。私は抗酸菌などを疑わない限り喀痰培養はほぼ提出していません。

肺炎で血痰がでることがありますが、肺炎では肺胞毛細血管漏出のため赤血球が肺胞に入り込むためです。肺炎で血痰が出る人は結構いますが、この機序はイメージしやすく納得です。

マイコプラズマ肺炎は免疫反応による細胞障害であり細胞性免疫の過剰反応が気管支血管周囲に炎症細胞の浸潤をもたらし、内腔が狭窄するため閉塞性気管支炎をきたすとされています。

治療の抗生剤は一般的なCAPでは最短5日かつ解熱後3日までが1つの目安ですが起因菌や肺化膿症などの合併症の状態により、より長期になることもある。細菌性肺炎にはアモキシシリン/クラブラン酸やキノロン系を、非定型肺炎にはマクロライド系やミノサイクリン、キノロン系を用います。1日1回の点滴投与が必要な状況ではセフトリアキソン、ラスクフロキサシン、レボフロキサシン、アジスロマイシンが使用できます。外来でみる場合にセフトリアキソンを院内で1日のみ投与し、自宅でオーグメンチンとサワシリンを内服してもらうこともあります。在宅の場では1日1回の点滴が限度である場合が多いため、これらは重宝します。トスフロキサシンは結核に効果がないことも大切です。

重症な肺炎ではサイトカインストーム(過剰な炎症)で肺胞上皮や肺毛細血管内皮が障害されてARDSをきたすことがあります。重症な場合は広域抗生剤にマクロライド系やステロイドを併用することがあります。アレルギーや併用禁忌薬がなければアジスロマイシンの点滴は気軽に投与していいのかなと思います。耐性菌うんぬんを言う事も大事ですが、重症な場合はまず救命をが優先で良いと思います。

NHCAPは①長期療養型や介護施設入所しているか、②過去90日以内に病院を退院していないか、③PS3程度で介護を必要としていないか、④通院して血管内治療を受けていないかをみて判断します。NHCAPは肺炎球菌や肺炎桿菌、MRSAが多いが、外来で治療できそうであればCAPと同様の抗生剤で良いとされています。このMRSAは保菌のみで肺炎とは関係ないことが多く注意が必要です。検出されても定着しているだけということが多く、MRSAをカバーしていない抗生剤で改善することが多い印象です。

肺炎球菌とレジオネラの尿中抗原は数か月以上陽性が続くため肺炎を繰り返している場合は、2回目以降は以前の肺炎球菌の陽性反応が残っているだけということがある。
肺炎球菌の検査は尿中抗原と喀痰抗原があり、成人のCAPで肺炎球菌に対する検出感度は尿中抗原が62%、喀痰抗原が89%である(福島喜代康,他.日呼吸会誌.2013.2:343-348.)が、喀痰抗原の場合は口腔内の肺炎球菌を検出しているだけという擬陽性に注意。

成人肺炎の起因菌検出のための抗原検査は肺炎球菌、レジオネラ、インフルエンザ、マイコプラズマ、SARs-CoV-2を主に考慮する。RSウイルスは乳児では行うが、RSは成人でも話題になることが増えてきており今後はどうなるか不明。マイコプラズマ、レジオネラ、インフルエンザ、SARs-CoV-2はPCRなどの遺伝子検査もできる。

肺炎クラミジアはIgM,IgG,IgAの抗体価で診断するが、発症時期によって参考になる結果が異なるため注意。

ウイルス性肺炎はウイルスそのものによる肺炎と、細菌との合併肺炎、ウイルス感染後の細菌性肺炎がある。CAPではウイルスが検出された頻度は16.4%(Saito A,et al.J Infect Chemother.2006;12:63-69)でSARs-CoV-2が加わるとさらに増加しそう。CAP患者の30-45%でウイルスが検出された(Shoar S.Respiralogy.2023:28:82-83)。ウイルスだから季節によって変動はする、迅速検査キットはインフルエンザ、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、アデノ、SARs-CoV-2がある。サイトメガロウイルスは血液検査でC7-HARPや気管支肺胞洗浄液(気管支鏡で採取)で抗原陽性細胞の確認、組織診や細胞診で核内封入体の検出などで診断する。

誤嚥性肺炎は誤嚥リスクがある人の肺炎で原因は嚥下機能低下と胃食道機能不全に大別されますが、誤嚥性肺炎の診断基準はありません。50代でも20%程度は誤嚥性であると言われており、高齢者のみではないことにも注意が必要です。誤嚥はむせこみがみられる顕性誤嚥と、みられない不顕性誤嚥があり、誤嚥する量が少ない誤嚥をマイクロアスピレーションと言い、これによって肺炎が生じることが多いとされています。高齢者の誤嚥性肺炎は老衰の経過ととらえることが多く、どこまで治療するかは相談が必要です。外来に通院できるADLの人は治療が必要ですが、高齢で認知症がありしゃべれない、歩けない、食べれない人にどこまで治療するかは家族との相談が必須です。私は以前勤務していた田舎の病院で、寝たきりで意思疎通できない超高齢者を数多く見ていました。家族からの強い要望で全ての救命処置を行い、できる限りの治療を全て行うようなことをしていました。やりがいはなく、家族からの強い要望をどこまで聞かなければいけないのかと思っていましたが、環境を変えることによって現在はそういった患者の対応は少なくなったため勉強のやる気も十分でるようになりました。田舎の医療はほんとに大変でした。

嚥下機能の確実な評価方法には嚥下造影検査と嚥下内視鏡検査があります。ベッドサイドでできる簡易的なものは反復唾液嚥下テスト(RSST)と改訂水飲みテスト(MWST)、簡易嚥下誘発試験があります。RSSTは中指で甲状軟骨を、人差し指で舌骨を触れておき、唾液を飲み込んだときに舌骨が人差し指を超えるかをみるものです。30秒で3回できればおそらく大丈夫です。MWSTは水5mlを舌の下にシリンジなど(コップでも可)を用いて注いで嚥下してもらい、むせないか、呼吸状態が悪化しないか(パルスオキシメーターをつけておく)をみます。誤嚥性肺炎の患者さんが入院になるときはRSSTを救急外来で行ってから病棟へ上げてました。MWSTはコップなど必要であり、私は急性期病棟では利用していませんでしたが、介護施設へ入所する利用者さんの対応をするときは行っておりました。

高齢者の肺炎を診る際は、「この患者がこの先1年以内に死亡するとしたら驚くか」というSurprise Questionを考えて急変時の対応を決めていくことが大切(非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021)とされています。この考えは在宅医療を行うときに全ての疾患でかなり有用でした。もちろん急性期病棟でも使用できると思いますのでお勧めです。これを言語化してくれた方に感謝です。ほんとにおすすめです。

肺炎予防のワクチンには肺炎球菌、インフルエンザ、RSウイルスがあります。
肺炎球菌にはPPSV23(ニューモバックス®)、PCV13(プレベナー13®)、PCV15(バクニュバンス)、PCV20(プレベナー20®)がありいずれも不活化ワクチンです。生ワクチンは原則4週間、不活化ワクチンは原則2週間空けるとされていますが、不活化ワクチンの種類によっては同日接種したりします。
ニューモバックス®はB細胞のみの依存ですが、PCVはB細胞のみではなくT細胞も関与しているため免疫効果が高いとされていますが、カバーしている範囲が違うため一長一短です。ニューモバックス®はCOPD増悪の抑制、肺炎による入院抑制、肺炎発症抑制の効果がありますが、これはインフルエンザワクチンを接種していることが前提の効果ですので、毎年のインフルエンザワクチン接種はもはや必須のような感じです。
PCVも肺炎球菌性肺炎抑制や侵襲性肺炎球菌感染症のリスクを減らします。
莢膜型も変化していくため免疫抑制患者はPCV13あるいはPCV15接種しその後6カ月-4年以内にPPSV23を接種すると良いとされています。PPSV23接種後にPCV13を受ける場合は1年間、PPSV23後に再度PPSV23を接種する場合は5年空けることが推奨されています。

インフルエンザワクチンはインフルエンザ発症を減らし死亡抑制効果があります。重症化抑制のみと思っていましたが、発症も減らすようです。
RSウイルスワクチンは60歳以上あるいは慢性心・肺疾患ある人は接種した方が良いとされており、今後も期待が高いワクチンだと思います。しかしワクチン費用がとにかく高く、接種を進めても断れることが多いです。

肺炎予防には口腔ケアも重要で、うがいのみでは不十分で歯磨きを丁寧に行うことが大切です。

参考文献
呼吸器内科・外科学 メディカルレビュー社.
成人肺炎診療ガイドライン2024.