肺炎は肺実質の急性の感染性の炎症とされています。
原因菌の観点から細菌性と非定型肺炎に大別され、発症した場所の観点からは市中肺炎(CAP)、院内肺炎(HAP)、医療・介護関連肺炎(NHCAP)に大別されます。
また、画像の観点からは大葉性肺炎と気管支肺炎に分類されます。このように様々な視点からの分類がありそれぞれ一個ずつ確認していくことが大切ですが、実際は細菌性肺炎か非定型肺炎か考えるのが一番大切かなと思います。画像の分類の大葉性肺炎は肺炎球菌、クレブシエラ、レジオネラで見られ、炎症によって滲出物が肺胞に貯留しKohn孔を通って拡大するため、気管支が支配している区域とは関係なく非区域性に拡大していきます。気管支肺炎はその気管支が支配している区域に沿って広がります。ただ気管支肺炎の画像所見を示していても肺炎球菌であることもありますし、起因菌の検査はあくまで抗原検査などで行うため学術的には大事なのでしょうがあまり臨床では役にたたない気がします(ただ検査キットがないなど抗原検査ができない状況であれば役に立つと思います)。
細菌性肺炎と非定型肺炎(マイコプラズマ)の鑑別は①60歳未満、②基礎疾患がないか軽い、③頑固な咳、④胸部聴診所見が乏しい、⑤迅速検査陰性、⑥WBC 10000/μL未満、の項目の合致数で行いますが、これは4項目合致しても鑑別は難しく、マイコプラズマと細菌が合併することもあるためあくまで参考程度です。レジオネラの推定にはこの基準は使えません。外来では判断が難しく、細菌性、非定型療法をカバーする抗生剤をだすこともかなり多いです。
CAPは肺炎球菌やインフルエンザ菌、マイコプラズマが多く、慢性肺疾患がある人はモラキセラも考慮が必要とされています。ウイルスはエンテロウイルス、ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルスなどがみられます。口腔内連鎖球菌やプレボテラ賊、フゾバクテリウム属などの嫌気性菌も多い(Nemoto K,et al.J Infect Chemother 2022:28:1402-1409)とされており、なんでもありです。これらの原因のなかで検査キットがある抗原検査をすべて行うことは非現実的で、一般外来では喀痰培養の結果を待っている間にほとんどが治癒してしまいます。もし改善なかったときのことを考えると喀痰培養はやっても良いのかも知れませんが、良好な喀痰の採取は難しく、口腔内の常在菌が検出されるだけで終わることも多く、どこまでやるかは悩ましいと思います。私は抗酸菌などを疑わない限り喀痰培養はほぼ提出していません。
肺炎で血痰がでることがありますが、肺炎では肺胞毛細血管漏出のため赤血球が肺胞に入り込むためです。肺炎で血痰が出る人は結構いますが、この機序はイメージしやすく納得です。
マイコプラズマ肺炎は免疫反応による細胞障害であり細胞性免疫の過剰反応が気管支血管周囲に炎症細胞の浸潤をもたらし、内腔が狭窄するため閉塞性気管支炎をきたすとされています。
治療の抗生剤は一般的なCAPでは最短5日かつ解熱後3日までが1つの目安ですが起因菌や肺化膿症などの合併症の状態により、より長期になることもある。細菌性肺炎にはアモキシシリン/クラブラン酸やキノロン系を、非定型肺炎にはマクロライド系やミノサイクリン、キノロン系を用います。1日1回の点滴投与が必要な状況ではセフトリアキソン、ラスクフロキサシン、レボフロキサシン、アジスロマイシンが使用できます。外来でみる場合にセフトリアキソンを院内で1日のみ投与し、自宅でオーグメンチンとサワシリンを内服してもらうこともあります。在宅の場では1日1回の点滴が限度である場合が多いため、これらは重宝します。トスフロキサシンは結核に効果がないことも大切です。
重症な肺炎ではサイトカインストーム(過剰な炎症)で肺胞上皮や肺毛細血管内皮が障害されてARDSをきたすことがあります。重症な場合は広域抗生剤にマクロライド系やステロイドを併用することがあります。アレルギーや併用禁忌薬がなければアジスロマイシンの点滴は気軽に投与していいのかなと思います。耐性菌うんぬんを言う事も大事ですが、重症な場合はまず救命をが優先で良いと思います。
NHCAPは①長期療養型や介護施設入所しているか、②過去90日以内に病院を退院していないか、③PS3程度で介護を必要としていないか、④通院して血管内治療を受けていないかをみて判断します。NHCAPは肺炎球菌や肺炎桿菌、MRSAが多いが、外来で治療できそうであればCAPと同様の抗生剤で良いとされています。このMRSAは保菌のみで肺炎とは関係ないことが多く注意が必要です。検出されても定着しているだけということが多く、MRSAをカバーしていない抗生剤で改善することが多い印象です。
肺炎球菌とレジオネラの尿中抗原は数か月以上陽性が続くため肺炎を繰り返している場合は、2回目以降は以前の肺炎球菌の陽性反応が残っているだけということがある。
肺炎球菌の検査は尿中抗原と喀痰抗原があり、成人のCAPで肺炎球菌に対する検出感度は尿中抗原が62%、喀痰抗原が89%である(福島喜代康,他.日呼吸会誌.2013.2:343-348.)が、喀痰抗原の場合は口腔内の肺炎球菌を検出しているだけという擬陽性に注意。
成人肺炎の起因菌検出のための抗原検査は肺炎球菌、レジオネラ、インフルエンザ、マイコプラズマ、SARs-CoV-2を主に考慮する。RSウイルスは乳児では行うが、RSは成人でも話題になることが増えてきており今後はどうなるか不明。マイコプラズマ、レジオネラ、インフルエンザ、SARs-CoV-2はPCRなどの遺伝子検査もできる。
肺炎クラミジアはIgM,IgG,IgAの抗体価で診断するが、発症時期によって参考になる結果が異なるため注意。
ウイルス性肺炎はウイルスそのものによる肺炎と、細菌との合併肺炎、ウイルス感染後の細菌性肺炎がある。CAPではウイルスが検出された頻度は16.4%(Saito A,et al.J Infect Chemother.2006;12:63-69)でSARs-CoV-2が加わるとさらに増加しそう。CAP患者の30-45%でウイルスが検出された(Shoar S.Respiralogy.2023:28:82-83)。ウイルスだから季節によって変動はする、迅速検査キットはインフルエンザ、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、アデノ、SARs-CoV-2がある。サイトメガロウイルスは血液検査でC7-HARPや気管支肺胞洗浄液(気管支鏡で採取)で抗原陽性細胞の確認、組織診や細胞診で核内封入体の検出などで診断する。
誤嚥性肺炎は誤嚥リスクがある人の肺炎で原因は嚥下機能低下と胃食道機能不全に大別されますが、誤嚥性肺炎の診断基準はありません。50代でも20%程度は誤嚥性であると言われており、高齢者のみではないことにも注意が必要です。誤嚥はむせこみがみられる顕性誤嚥と、みられない不顕性誤嚥があり、誤嚥する量が少ない誤嚥をマイクロアスピレーションと言い、これによって肺炎が生じることが多いとされています。高齢者の誤嚥性肺炎は老衰の経過ととらえることが多く、どこまで治療するかは相談が必要です。外来に通院できるADLの人は治療が必要ですが、高齢で認知症がありしゃべれない、歩けない、食べれない人にどこまで治療するかは家族との相談が必須です。私は以前勤務していた田舎の病院で、寝たきりで意思疎通できない超高齢者を数多く見ていました。家族からの強い要望で全ての救命処置を行い、できる限りの治療を全て行うようなことをしていました。やりがいはなく、家族からの強い要望をどこまで聞かなければいけないのかと思っていましたが、環境を変えることによって現在はそういった患者の対応は少なくなったため勉強のやる気も十分でるようになりました。田舎の医療はほんとに大変でした。
嚥下機能の確実な評価方法には嚥下造影検査と嚥下内視鏡検査があります。ベッドサイドでできる簡易的なものは反復唾液嚥下テスト(RSST)と改訂水飲みテスト(MWST)、簡易嚥下誘発試験があります。RSSTは中指で甲状軟骨を、人差し指で舌骨を触れておき、唾液を飲み込んだときに舌骨が人差し指を超えるかをみるものです。30秒で3回できればおそらく大丈夫です。MWSTは水5mlを舌の下にシリンジなど(コップでも可)を用いて注いで嚥下してもらい、むせないか、呼吸状態が悪化しないか(パルスオキシメーターをつけておく)をみます。誤嚥性肺炎の患者さんが入院になるときはRSSTを救急外来で行ってから病棟へ上げてました。MWSTはコップなど必要であり、私は急性期病棟では利用していませんでしたが、介護施設へ入所する利用者さんの対応をするときは行っておりました。
高齢者の肺炎を診る際は、「この患者がこの先1年以内に死亡するとしたら驚くか」というSurprise Questionを考えて急変時の対応を決めていくことが大切(非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021)とされています。この考えは在宅医療を行うときに全ての疾患でかなり有用でした。もちろん急性期病棟でも使用できると思いますのでお勧めです。これを言語化してくれた方に感謝です。ほんとにおすすめです。
肺炎予防のワクチンには肺炎球菌、インフルエンザ、RSウイルスがあります。
肺炎球菌にはPPSV23(ニューモバックス®)、PCV13(プレベナー13®)、PCV15(バクニュバンス)、PCV20(プレベナー20®)がありいずれも不活化ワクチンです。生ワクチンは原則4週間、不活化ワクチンは原則2週間空けるとされていますが、不活化ワクチンの種類によっては同日接種したりします。
ニューモバックス®はB細胞のみの依存ですが、PCVはB細胞のみではなくT細胞も関与しているため免疫効果が高いとされていますが、カバーしている範囲が違うため一長一短です。ニューモバックス®はCOPD増悪の抑制、肺炎による入院抑制、肺炎発症抑制の効果がありますが、これはインフルエンザワクチンを接種していることが前提の効果ですので、毎年のインフルエンザワクチン接種はもはや必須のような感じです。
PCVも肺炎球菌性肺炎抑制や侵襲性肺炎球菌感染症のリスクを減らします。
莢膜型も変化していくため免疫抑制患者はPCV13あるいはPCV15接種しその後6カ月-4年以内にPPSV23を接種すると良いとされています。PPSV23接種後にPCV13を受ける場合は1年間、PPSV23後に再度PPSV23を接種する場合は5年空けることが推奨されています。
インフルエンザワクチンはインフルエンザ発症を減らし死亡抑制効果があります。重症化抑制のみと思っていましたが、発症も減らすようです。
RSウイルスワクチンは60歳以上あるいは慢性心・肺疾患ある人は接種した方が良いとされており、今後も期待が高いワクチンだと思います。しかしワクチン費用がとにかく高く、接種を進めても断れることが多いです。
肺炎予防には口腔ケアも重要で、うがいのみでは不十分で歯磨きを丁寧に行うことが大切です。
参考文献
呼吸器内科・外科学 メディカルレビュー社.
成人肺炎診療ガイドライン2024.